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●監督・脚本:大谷健太郎
●プロデューサー:武藤起一 ●撮影:鈴木一博 ●音楽:Reinald Pineda ●美術:貝賀香織 ●出演:小林宏史/板谷由夏/辻香緒里/大杉漣/大谷健太郎/寺島まゆみ 井上豪/水森まどか/黒川雅矢/矢内耕平 1998年日本作品
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2組の今風夫婦の四画関係を全編ほとんど会話だけで成り立たせている映画である。
ただそれだけのシンプルな作りの映画なのに、これがなんともおもしろい。 彼らの何気ない日常会話や本音のぶつかり合いがどれもいちいちもっともで、だけど言葉の行き違いや考え方の違いから誤解が生じ、いちどこじれた関係はなかなかうまく修復していかない、そんなもどかしさや危うさがどきどきしながら楽しめる。 優柔不断な物言いや、けっこうシビアな見方や考え方、そして意地の張り合い、そんなそれぞれの立場に時に共感し、時に反撥しながらも、果たして4人の関係はいったいどうなるのかといった興味を強くひきずって映画はテンポよく進んでいく。 結局夫婦の危機も収まるところに収まって最後にニヤリとさせられて、爽快な気分を味わえる。 金をかけなくても、工夫次第でこんなにもオシャレで面白い映画が作れるのだということをこの映画は教えてくれる。 4人の主役は大杉漣以外はこの映画で初めて知った顔ばかりだが、どの俳優もみなそれぞれに生き生きとしていて適役だ。 優柔不断だが妻を愛し、キャリアウーマンの妻を支えて家事全般をまめにこなすタモツを演じる小林宏史。 彼のヌーボーとしたキャラクターがとてもいい。 そして家事はまったく駄目な仕事一途の妻、美都子を演じる板谷由夏。優柔不断で優しいタモツとは対照的に意地が強くおまけにプロレスが強いという現代的な女性である。 だがそんな強さをもちながら時折見せる女らしい優しさや弱さがとっても色っぽい。 そんな彼女の脆さをタモツはわかっていて、彼女にそれと気づかれないようにそっと彼女をサポートするところに彼の隠れた強さが垣間見えてくる。 つぎにタモツの浮気相手と疑われているマユを演じる辻香緒里。 モデルでカメラマンの彼女の本音で生きる奔放さが結局この4人の関係を掻き回し、複雑なものにしているいちばんの原因なのである。 そんな奔放さも含めて彼女を愛しているアート・ディレクターの夫、中崎を演じるのが大杉漣である。 親子ほど年の離れたマユの言いなりに別居という不自然な形で夫婦生活を営んでいる。 そして仕事上では編集者の美津子と組むといった間柄である。 こんな4人の関係をもういちどじっくり見つめ直そうと中崎はタモツと美津子を自分のアトリエに招待する。 そしてそれに気づいたマユも途中から加わってそれぞれの本音をぶつけ合うことになるのである。 だがこうしたもつれた関係がけっして修羅場にはならず、友達感覚で淡々と進んで行くところが現代的というか、新しい男女の関係といえるところなのかもしれない。 監督、脚本はPFFなどで入賞した実績をもつ大谷健太郎。これが彼の劇場用映画のデビュー作ということだが、なかなかの才能の登場だ。 今後が大いに楽しみな監督である。 |
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●監督:カール・フランクリン ●原作:アナ・クィンドレン
●製作総指揮:ウィリアム・W・ウィルソンIII/レスリー・モーガン ●製作:ハリー・アフランド/ジェシ・ビートン ●脚本:カレン・クローナー ●撮影:デクラン・クイン ●音楽:クリフ・エイデルマン ●プロダクション・デザイナー:ポール・ピータース ●出演:メリル・ストリープ/レニー・ゼルウィガー/ウィリアム・ハート トム・エベレット・スコット/ニッキー・カット/ローレン・グラハム |
ニューヨークで雑誌記者をしているエレン・グルデンにとって小説家で高名な大学教授の父親は自慢の父親だ。
幼い頃から父親の目を意識し、彼から認められたいという思いで生きてきた。 そして父親の期待に応えるかのようにハーバード大学を卒業し、今やニューヨークでジャーナリストとしてのキャリアを積み重ねる日々である。 だがそんな父親に比べて専業主婦の母親の生き方は、実につまらないものに思えてしまう。 娘と息子を育てあげ、夫に献身的に尽くす、絵に描いたような良妻賢母型の生き方はいかにも平凡で嫌悪さえ感じてしまうのだ。 そんな批判的な気持ちを反映してか、母親との関係もいささかぎくしゃくとしたものになっている。 そんな彼女の心の内を知ってか知らずか、母親の態度は昔も今も変わりのない愛情に溢れたもので、彼女の気配りと働きがこの理想的とも思える家庭の大きな支えになっていることがよくわかる。 だがこうした均衡も母親が末期ガンだということが判明すると一挙に崩れ去ってしまう。 手術をうけ、自宅療養が始まると父親はエレンに仕事を休んで母親の看護につくよう強く要求する。 そんな一方的な父親の要求に反撥を感じながらもエレンは仕方なく在宅で仕事をこなしながらの生活を始めることにする。 だがまともに家事を経験したことのないエレンにとってそれは想像以上に悪戦苦闘の日々であった。 こうして精神的にも肉体的にも追いつめらていくなかで、それまでは想像もしなかったような父親との確執が生まれ、父親に対する疑念が生じ、さらには父親の意外な弱さを見ることにもなっていく。 同時に嫌悪していた母親のなかにそれまでは気づかなかった強さを発見し、彼女が家族にとっていかに大きな存在であったかということにも気づくようになる。 また彼女から人生について、家族について、さまざまなものを学んでいく。 死期が近づいたなか、それが最後の仕事でもあるかのようにエレンに強く諭す母親の姿がこの映画のクライマックスである。 「幸せになるのは簡単よ。無いものねだりは止めて、今あるものを精いっぱい愛することよ。豊かな心で」 家族が互いに支え合っていくことの大切さ、現実を見据えることで得られる幸せの大切さを愛情をこめてエレンに伝えるのである。 大きな存在だと思っていた父親も実はこうした母親の力強い包容力に支えられていたのである。 こうして母親は家族それぞれに大きなものを残し、春を待たずに「眠り」につくのである。 メリル・ストリープが母親を、ウィリアム・ハートが父親を好演。 レニー・ゼルウィガーがふたりに負けずにエレン役を力演している。 地味な内容ながらさまざまなことを考えさせられる佳作であった。 |
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●監督:中原俊 ●原作:山本おさむ ●脚本:山田耕大
●製作:中川滋弘 ●撮影:上野彰吾 ●音楽:山田武彦 ●美術:稲垣尚夫 ●出演:小林薫/風吹ジュン/益岡徹/深水三章/吉村実子/林泰文 梶原阿貴/金久美子/浜丘麻矢/二瓶鮫一/岩松了 1998年日本作品
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しっとりとした作りの大人のラブストーリー。
主演の小林薫と風吹ジュンがともにいい味を出している。 ふたりは中学時代の同級生。卒業以来いちども会っていなかったふたりだが、同窓会で30年ぶりに再会したところから物語は始まる。 もう若くはなく、それぞれに別々の人生を歩んできた初恋同士のふたりが共通の想い出をたぐり寄せながら次第に心を通わせていく。 最初は遠慮がちに、大人としての謹みと分別をわきまえながら。 ただ会って想い出話をするだけが楽しみなふたりだったが、いつか男と女として真剣に愛し合うようになっていく。そのプロセスが丹念に描かれる。 微妙な心の動き、揺れ具合が痛いほど伝わってきて息苦しい。 真面目で不器用な中年男の「浦山くん」と東京での結婚に躓き、ひとり娘を連れて故郷に帰り、今は「コキーユ」という名前のスナックを開いている直子。 そんなふたりがすれ違いに終わった初恋を30年ぶりに成就させるかのように身を委ねていく。 直子が眠っている浦山の聞こえない左耳にむかって、「もういちど始めからやり直したい」と囁く言葉が哀しい。 人生の折り返し点を過ぎた頃、だれもが等しくこんな感傷に浸ることがあるのではなかろうか。 もういちどあの頃に戻って人生をやり直したいと。 ましてや結婚に破れ、ひたすら初恋の人を想い続けていた直子の場合はとくに胸に迫るものがある。 そんな想いに愚直な浦山も真剣になって応えていく。 それはまるで失ってしまった時間をふたりでともに取り戻そうとするかのような日々である。 他人事とは思えない。 まるで自分自身がこういった状況に遭遇したかのような錯覚をおぼえてしまう。 同じ団塊の世代同士という共通項がそうさせているのだろうか。 シーンのひとつひとつが心に強く響いてくる。そしてセリフのひとつひとつが強く心を掻き回す。 こんなファンタジーをいつか夢想したことがあるような気がする。 そしてひととき初恋の頃の自分に戻り、感傷に胸ときめかせたような記憶がどこかにある。 それはとても幸せな感傷だ。 そんな記憶をふと思い起こした映画だった。 |
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●監督:リドリー・スコット
●製作総指揮:ウォルター・F・パークス/ポーリー・マクドナルド ●製作:ダグラス・ウィック/デビッド・フランゾーニ/ブランコ・ラスティグ ●脚本:デビッド・フランゾーニ/ジョン・ローガン/ウィリアム・ニコルソン ●音楽:ハンス・ジマー/リサ・ジェラルド ●出演:ラッセル・クロウ/フォアキン・フェニックス/コニー・ニールセン オリバー・リード/ジャイモン・ハンスウ/リチャード・ハリス 2000年アメリカ作品
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古代ローマ帝国を舞台に繰り広げられるハリウッド久々の歴史スペクタクル。
名作「ベンハー」を思わせる壮大な復讐劇である。 メガホンをとるのは「エイリアン」「ブレードランナー」の名監督リドリー・スコット。 主役は「L.A.コンフィデンシャル」のはみだし刑事役で印象の強かったオーストラリア出身のラッセル・クロウ。 彼が最愛の妻子を処刑され、コロシアムで闘う剣闘士(グラディエーター)となって宿敵の前に現れる英雄マキシマス将軍を重厚に演じており、数奇な運命に翻弄されながらも自らの力で復讐を遂げる男の強さを見事に体現している。 対する宿敵、若きローマ皇帝コモドゥスをホアキン・フェニックスが屈折した演技で演じて、これも適役だ。 さらにはマキシマス将軍を実の息子のように思い、次期皇帝にと考えている皇帝マルクス・アウレリウスをリチャード・ハリスが、またかつては自分も剣闘士だった興行主プロキシモをオリバー・リードが演じて存在感を示している。 だがこうした配役以上に見ごたえのあるのが迫力ある戦闘シーンであり、剣闘士が闘うコロシアムの見事な再現である。 SFX技術を駆使した壮大なローマ帝国の再現はなんといってもこの映画第一の見どころである。 それはかつての「ベンハー」や「スパルタカス」といったスケールの大きな映画を思い起こさせるものがある。 久々に本格的な歴史スペクタクル・アクションを思いっきり堪能した2時間であった。 |
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●監督:相米慎二 ●原作:村上政彦 ●脚本:中島丈博
●製作:中川滋弘 ●撮影:長沼六男 ●音楽:大友良英 ●美術:小川富美夫 ●出演:佐藤浩市/斎藤由紀/山崎努/富司純子/藤村志保 余貴美子/三林京子/三浦友和/河合美智子/原知佐子 1999年日本作品
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妻の実家で義母、妻、幼い息子と暮らす主人公のもとにある日突然父親と名乗る男が現れる。
しかもその男は浮浪者同然の身なりをしたいかがわしい男である。 幼い時に父親とは死別したと聞かされていた主人公は男の言うことがにわかには信じられず、かといって邪険に追い払うこともできず、男の押しの強さに負け、中途半端な気持ちのままに男を家に泊めることになる。 ここから彼の家族と男との奇妙な共同生活が始まることになる。 そんな光景の中から家族とは、夫婦とは、父と子とは、といった問題が透けて見えてくる。 一見平和で幸せそうに見える現代の家族のあやうい一面が見知らぬ男の出現によってあぶり出されてくる展開が笑いとともに描かれる。 そんな軽妙さの陰から人生の苦さや面白さも同時に見えてくる。 主人公が自宅の庭で飼っているチャボや主人公がなにげなく歌う漁師の唄が物語のなかで効果的に使われているのが面白い。 山崎努、富司純子、藤村志保といったベテランたちの確かな演技とそれに負けずに絡んでいく佐藤浩市、斎藤由紀らの演技のバランスもなかなかいい。 相米慎二監督もそろそろ円熟味を見せ始めたかといった印象だ。 間違いなく彼の代表作の1本になるだろう。 昨年度のキネマ旬報日本映画ベストテン1位に選ばれた作品である。 |
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