アメリカが陽気で幸せな栄光に包まれていた50年代を背景に理想の家族を描いたホーム・ドラマ「プレザントヴィル」が今日もテレビで放送されている。
そしてこの番組の大ファンである「プレザントヴィル」おたくのデイビッドが双子の妹、ジェニファーとチャンネル争いをしているうちに突然そのホーム・ドラマの世界に紛れ込んでしまう。
そんな突拍子もない出来事から「カラー・オブ・ハート」の世界が始まっていく。
突然、主人公一家の一員になったふたりは雨も降らず、特別の事件も事故も起きない平和で退屈なプレザントヴィルの世界を生きていくことになる。
そしてマイナスの要素がなく、映画の書き割りのように薄っぺらな表面だけの世界にふたりが人間的な要素を持ち込むことで町の人々に次第に変化が現れ始める。
自分たちの世界に何の疑いももたず、ただ決められた通りの安全な生活を繰り返しているだけの脳天気な人間たちが新しい欲望や快楽に目覚め、自分たちの知らない価値観や自由の感覚を味わうことで次第に人間的に解放されていく。
それにしたがって白黒だけだったプレザントヴィルの町が徐々に色づき始める。
まさに血が通い始めるという表現そのままに白黒の画面のなかを色鮮やかな色彩が浸透し始める。
そしてそのように変化していく映像こそがこの映画最大の見せ場であり、売り物でもあるのだ。
最初はささやかにバラ一輪が変化しただけの色彩が次第にその勢いを増して画面を支配し始める美しさは素晴らしい。
プレザントヴィルの町に洪水のような勢いで春が押し寄せてきたかのようである。
さらにこうした変化に同調するかのように町には雨が降り、火事が起き、何も書かれていなかった本のページが活字で埋められていくのである。
「知る」ということがこんなにも人間を生き生きとさせるものだということをユーモアを交えながら描かれていく。
だが、こうした急激な変化が起きる時の常として、それを快く思わない保守派の人間たちによる強硬な秩序立て直し運動が巻起きることになる。
変化を容認できない人間の行動はその無知ゆえに、時として過激なものとなる。
ここでも彼らは本を焼き、色づいた人間たちを迫害し始める。
こうして町は白黒の人間と色のついた人間とに2分され、対立を深めていく。
それは歴史上これまでにもたびたび繰り返されてきた混乱をプレザントヴィルという小さな町に再現することで痛烈な文明批評を行おうとする意志のようにも見えてくる。
そしてそのどちらがいいとか悪いとかの判断を示すのではなく、いちど覚えた経験はもう二度と消し去ることはできないのだということを、またそれと同時に、いちど変化した社会も決して後戻りはできないのだということをこの物語は語っている。
これは『ビッグ』や『デーブ』といったファンタジック・コメディの傑作を書いた脚本家のゲーリー・ロスが初めてメガホンをとった作品である。
そしてそれらの作品同様に彼らしいひねった発想とアイデアがここにも溢れているのである。
製作:ジョン・キリック/ロバート・J・デガス/スティーブン・ソダーバーグ
製作・監督・脚本:ゲイリー・ロス 撮影:ジョン・リンドレー 音楽:ランディ・ニューマン
美術:ジニーン・オプウォール 視覚効果:クリス・ワッツ 色彩効果デザイナーマイケル・サザード
編集 ウィリアム・ゴールデンバーグ 衣装:ジュディアナ・マコフスキー
出演:トビー・マグァイア/リース・ウィザースプーン/ジョアン・アレン
ウィリアム・H・メイシー/ジェフ・ダニエルズ/J・T・ウォルシュ/ドン・ノット
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