2011年5月19日
 
 
春との旅
 
 
2009年日本作品。  上映時間134分。 監督/原作/脚本: 小林政広 製作: 與田尚志/福原英行/豊島雅郎/堂馬隆之/臼井幸彦/菊池育夫 プロデューサー: 紀伊宗之/小林直子 エグゼクティブプロデューサー: 與田尚志 アソシエイトプロデューサー: 脇田さくら/小林政広 撮影: 高間賢治 美術: 山崎輝 衣装: 宮本まさ江 編集: 金子尚樹 音楽: 佐久間順平 音響効果: 瀬谷満 ヘアメイク: 小沼みどり 照明: 上保正道 装飾: 鈴木隆之 録音: 福田伸 助監督: 石田和彦 出演: 仲代達矢/徳永えり/大滝秀治/菅井きん/小林薫/田中裕子/淡島千景/長尾奈奈/柄本明/美保純/戸田菜穂/香川照之
 
以前にも書いたが、ここ1ヶ月ほどは本を読むことに時間をとられて、あまり映画は観ていない。
それでもなんとか時間をやりくりして、何本かを観ることができた。
その中で印象に残ったのは、小林政広監督の「春との旅」という映画であった。
小林政広監督の映画は、昨年観た「愛の予感」で強い印象を受けた。
そこで、「春との旅」も期待をして観たわけだが、その期待通りの見応えのある映画だった。
「ある日、突然 ひとりの老人が家を捨てた。」「孫娘、春があとを追った」といった設定から始まるロードムービーである。
主演は仲代達矢、彼が脚の悪い老いた元漁師、忠男を演じている。
そして孫娘、春を演じるのは、若手女優の徳永えり。
ふたりがぶつかりあいながらも、今まで疎遠だった親類たちをつぎつぎと訪ね歩いていく。
それは妻も娘も失い、孫娘に頼って生きてきた忠男が、春を自由にさせるべく、自分の面倒を看てくれる親類縁者を探す旅であった。
そこから家族や高齢化社会といった切実な問題が浮かび上がってくる。
「愛の予感」もそうだったように、この映画もまたふたりにつかず離れず、ドキュメンタリーのように追い続ける。
あまりカメラを意識させないためであろうか、望遠を多用、長回しのカットが多く見られる。
それが緊張感あふれる演技を引き出す効果となっており、ワンカット、ワンカットを息を詰めて観ることになる。
さらに脇役に、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之といった芝居達者な顔ぶれを揃え、しかもほとんどが、たったワンシーンのみの出演といった贅沢さである。
だが、その短いシーンの演技が、いつまでも心に残る。
長い時間画面に顔を出せばいいというものでもないのだということを、今更のように思ったのであった。

頑固一徹で融通の利かない忠男は、どこへ行っても歓迎されない。
それどころか、お互いに悪態をついての衝突ばかり。
しかしぶつかり合い、突き放しながらも、最後は肉親の愛情が垣間見えてくる。
そうしたことを繰り返していくにうちに、偏屈でどうしようもない老人である忠男の、とぼけた面白さや一途さといった一面が見えてきて、しだいに愛すべき人物といった印象に変わってくる。
そして知らず知らずのうちに、忠男に惹き付けられ、強いシンパシーを感じるようになっていくのである。
仲代達矢演じる忠男は、頑固で融通の利かない元漁師というには、いささか立派すぎる気もしないではないが、それでもやはり彼の演技なくしては、こうした共感は生まれなかったに違いない。
人と対するということは、おのれ自身を見詰めることでもある。
疎遠になっていた親類を訪ね歩くことで、忠男と春は自分たちを取り巻く現実を、そしてこれからの人生と真剣に向かい合わざるをえなくなる。
そこから思うことは、人は誰でも多かれ少なかれ哀しみや苦しみといったものを背負って生きている。
安穏に生きているだけの人間などいないのだ、というしごく当たり前のことである。
そこでふたりは初めて自分たちの現実を、素直に受け入れていこうという気持ちになっていく。
これはけっして彼らだけの問題ではなく、現代に生きる人間たちが等しく考えてゆかねばならない問題でもある。
そうしたことを改めて考えさせられた。
ふたりの旅が終わった後に訪れる静かな感動は、時間が経つにつれてさらに大きなものになってゆくような気がする。
<2011/5/19>

 
 
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