キネマ旬報邦画ベストテン100作品データ NO.3
 
 
 
日本の悲劇
 
 
●監督・脚本:木下恵介  
●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司  
●出演:望月優子/桂木洋子/田浦正巳 
 上原謙/高杉早苗/淡路恵子 
 高橋貞二/佐田啓二  
   
1953年松竹作品

 戦争未亡人がふたりの幼子を抱え、苦労して育て上げるが、結局ふたりの子供から見捨てられ、自ら命を絶つという悲劇である。 
 戦後の混乱と戦争の傷跡をひとりの報われない女の姿を通して描こうとした木下恵介監督の意欲作。 
 主人公の母親をさまざまな母親役を演じ続けた望月優子が熱演しており、彼女の代表作である。 
 同じく木下恵介作品で、同様に戦争未亡人となってしまう「二十四の瞳」のほうは救いがあるが、こちらはまったく救いがない。 
 あるいはこの2作品によって戦争を描かない反戦映画を陰と陽という両面から描こうとしたのかもしれない。
 
 
 
 
の・ようなもの
 
 
●監督・脚本:森田芳光 ●製作:鈴木光  
●撮影:渡辺貞 ●音楽:塩村宰 
●出演:伊藤克信/尾藤イサオ 
 秋吉久美子/麻生えりか  
   
1981年日本作品

 自主映画出身の森田芳光の劇場用映画第1作であり、出世作でもある。 
 この映画の独特のユーモアと映像感覚が注目されて、2年後の「家族ゲーム」へとつながっていく。 
 古典落語の修行に励む二つ目の落語家志ん魚(しんとと)の愛と青春の物語がとぼけた味わいで語られる。 
 落語的世界が現代的視点から描かれるのだが、考えてみればおかしさや哀しみに彩られた青春というものこそ、落語的要素が満ちあふれたものなのかもしれない。 
 だれにでも思い当たるような青春の微苦笑がこの映画にはたくさん詰まっていて、思わずニヤリとさせられる。 
 こうした着想のおもしろさは以後の森田作品に共通して流れているものだ。
 
 
 
 
約束
 
  
●監督:斎藤耕一 ●脚本:石森史郎  
●撮影:坂本典隆 ●音楽:宮川泰  
●出演:岸恵子/萩原健一 
 南美江/三國連太郎  
  
1972年松竹作品

 東映、日活で長くスチールマンとして活躍、自主製作映画「囁きのジョー」で映画監督に転身、以後さまざまなプログラム・ピクチャーを撮り続けた斎藤耕一監督のもっとも油がのりきった時期の1本である。 
 この前後3年の間に撮られた「旅の重さ」や「津軽じょんがら節」といった作品とともに彼の代表作となっている。 
 仮出獄中の女囚と若者が偶然乗り合わせた列車のなかで知り合い、愛し合うというこの映画で、それまでグループサウンズのアイドルだった萩原健一がベテラン岸恵子を相手に存在感のある演技を見せている。 
そして彼はこの映画への出演をきっかけに、以後俳優としての力量を発揮していくことになるのである。 
 そういった意味でも記憶に残る映画であった。 
 若者の一途さがショーケンの情熱だけで突っ走っているような生硬な演技と重なって強い印象を残している。 
 「時分の花」というものであろうか。
 
  
 
 
野獣死すべし
 
●監督:村川透 ●原作:大藪春彦 
●脚本:丸山昇一 ●撮影:仙元誠三 
●音楽:たかしままさひこ   
●出演:松田優作/室田日出男/鹿賀丈史  
 小林麻美/根岸季衣  
   
1980年東映・角川春樹事務所作品

 松田優作、村川透コンビが「蘇る金狼」に続いて撮ったハードボイルド・アクションの秀作。 
 大藪春彦の原作は日本のハードボイルド小説を代表する作品としてあまりにも有名。 
 1959年に仲代達也主演で映画化されたのに続いて2度目の映画化になる。 
 この映画では原作にはない人物として元従軍カメラマンの男が新たに登場し、事件の首謀者として犯罪を裏で操作するのだが、こうした改変はむしろしないほうがよかったように思われる。 
 犯罪による社会への挑戦という命題がいささか哲学的に語られたりするのだが、そのあたりから映画そのものも迷路に迷い込んでしまったかのような印象がある。 
 そうしたマイナス面があるものの、ハードボイルドとしてはなかなかに楽しめる作品である。
 
 
 
 
赤西蠣太
 
  
●監督・脚本:伊丹万作 ●原作:志賀直哉  
●撮影:漆山裕茂 ●音楽:高橋伴  
●出演:片岡千恵蔵/杉山昌三九/上山草人  
 梅村蓉子/毛利峰子/志村喬  
   
1936年千恵蔵プロ作品

 まずこの映画の題名にもなっている主人公の名前「蠣太」に奇妙な印象をもつが、実は奇妙なのはそれだけではなく、この映画の主な登場人物はみな「鯖」「鱈」「鮫」「鮟鱇(あんこう)」といった海に住む魚の名前がつけられている。 
 そんな独特のユーモアとウィットが映画全体を貫いている。 
 原作は志賀直哉の短編小説。 
 それを「無法松の一生」などの名シナリオを書いた伊丹万作が脚色、監督をしている。 
 伊達騒動に材をとったこの物語で、お家騒動の内情を調べるために国元から派遣された密偵、赤西蠣太と首謀者、原田甲斐の善悪両方の二役を片岡千恵蔵が演じているが、田舎者の醜男である赤西蠣太と歌舞伎の二枚目然とした原田甲斐という両極端の演じ分けがおもしろい。 
 とくに赤西蠣太のキャラクターは秀逸で、この物語のおもしろさのかなりの部分はこの人物の痛快さに負っている。 
 なかでも腸捻転を患った彼が自ら腹を切ってそれを治してしまうというエピソードには唖然とさせられる。 
 普段無口で穏やかなだけに、時折見せるこうした剛胆さが特に際だって見えてくる。 
 そしてほとんどの人間がこうした表面の見栄えだけで人物を判断しているなかで、やはり見ている人は見ているわけで、思わぬ人から好意をうち明けられることになるのである。 
 こうしたいかにも人を喰ったようなあっけらかんとした話がリズミカルで切れ味のある映像で描かれていく。 
 時代劇でありながら都会的で洗練されたセンスに満ちている。 
 戦前の作品だが、今観てもその感覚の新しさに驚かされる。
 
  
 
 
 
 
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