著者である俳優、土屋嘉男は東宝得意の特撮映画や黒澤明の映画で知られているが、なかでも黒澤明監督の「七人の侍」での農夫の役がとくに印象に残っている。
著者=土屋嘉男 発行所=新潮社 発行=1999年9月 |
それは全国一斉に封切られるメジャー系映画館ではかけられそうにない難解な映画や個性的な映画を客席数を限定した小規模な映画館で上映することで興行を成立させようとする形態であった。 こうしてかってなら商売としては成立しそうもない個性的な映画が上映されるようになり、それによって新しい観客層の掘り起こしにも成功するようになっていく。 そしてこうしたミニシアターが増加するにしたがって、それぞれの上映館が独自性のあるプログラムを組もうと競い合い、その結果より多彩な映画が上映されるようになり、われわれ観客の選択の幅も広がったのである。 この本では映画評論家川本三郎がそうしたミニシアターの映画だけに限定して書いている。 ここでは「ちょっと変わった小さな日本映画」「アジアの純情」「心地よく秘密めいた洋画」という三つのジャンルに分け、つごう69本の映画について書いている。 そのほとんどが穏やかな日常を見つめた静かな映画であるというところがいかにもミニシアター映画らしい特徴といえるだろう。 またそうした映画を語る川本三郎の文章も穏やかな優しさに満ちており、読み進んでいくうちに次第に彼独特の抒情に満たされていくことになる。 このなかで批評と云うことについて書いた印象深い文章がある。それは次のようなものだ。 「いい映画を見ると感動する。心地よくなる。その雰囲気にいつまでも包まれていたくなる。 批評の出発点はまずそこにある。そして、映画という小宇宙に向かって言葉によって近づいていく。 接近する。そんなことは不可能だとしても映画の世界に言葉によって近づこうとする。 私にとって批評とは、手持ちの乏しい言葉でなんとか映画を理解し、その美しさに一歩でも近づくことだ。」 まさに同感であり、もろ手をあげて賛成したい。 こうしたアプローチによって書かれた彼の文章が、さらにもういちど映画の感動を思い出させてくれるのだ。 いっきに読んでしまうのがもったいないような、そんな味わいのある評論集である。 著者=川本三郎 発行所=中央公論社 発行=1998年7月15日 |
関東大震災と東京大空襲というふたつの大きな災禍があったものの、それまでの東京には明治以来の古い風景がまだそこここに残されていた。 だが、東京オリンピックを中心とした高度成長によって日本人の生活は大きく変わり始め、そうしたものを次第に消し去っていくことになる。 さらにその後に続くバブル経済がこうした現象にとどめをさすことになる。 こうしてかつての面影をもった東京の町はそのほとんどが姿を消してしまったのである。 昭和二,三十年代という時代にこだわり続ける評論家の川本三郎が映画のなかにかつてのそんな懐かしい東京の風景を探し求め、それを再現しようと試みたのが本書である。 ここには昭和27年の「東京物語」にはじまって昭和37年の「銀座の恋の物語」までのつごう13本の映画が取り上げられているが、そのいずれもが東京オリンピック以前の映画であり、当然のことながらそこには失われた東京の姿が明瞭に撮し取られている。 それを川本はひとつひとつ丁寧に拾い集めては検証していく。 そこに撮された建物や乗り物、さらには川や路地がどのように機能し、人々の生活とどう関わっていたのか、資料を当たり、現在の姿と対比させ、さまざまな方法を駆使しながら検証していく。 こうしてかつての東京の町が再現されていく。 昭和19年に東京に生まれた川本にとってはそれは子供の頃の慣れ親しんだ町の風景である。 その身近だった町がいつか記憶のなかからも忘れ去られようとしている。 そして今や映画のなかでしか巡り会うことができないものになってしまっている。 それだけに愛しさはひとしおなものがある。 もういちど古い東京の風景を正確に記憶のなかに刻みこんでおきたい。 そんな願いからこの本は生まれたのである。 荷風を愛し、町歩きを愛し、古い東京の姿を愛する川本らしい労作といえよう。 著者=川本三郎 発行所=中央公論新社 発行=1999年5月15日 |
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