1999年5月
 
 
 
 
5/1 恋におちたシェイクスピア
(98アメリカ)
 
 
  
 シナリオ、俳優、衣装、音楽、美術とすべてにおいて一級品の作品である。 
 アカデミー賞7部門受賞は掛け値なしに納得できる内容である。 
 シェークスピアというと即文豪というイメージがあるが、ここでの彼は劇作に行き詰まり、恋に悩める身近で生きのいい親しみのもてる青年である。 
 その設定だけでもうこの物語に気軽に没入していける。 
 時は16世紀末のロンドン。劇場の座付け作者としてようやく認め始められたシェークスピア(ジョセフ・ファインズ)であるが、今回の新作では行き詰まってしまい新しいアイデアが出てこない。 
 なんとかこの壁を乗り越えようと悩むシェークスピアの前にひとりの美しい女性ヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)が現れる。 
 彼女も秘かに身を焦がすような恋に憧れる女性であった。 
 こんなふたりが出会うことによってあっという間に恋に落ちてしまう。 
 そして彼女との恋がシェークスピアの創作に俄然火をつけることになる。 
 彼女への恋の囁きが即新作の主人公ロメオのセリフとなり、彼女の言葉がジュリエットのセリフになり、彼女との逢瀬が即舞台の設定として反映されていく。 
 さらにこの新作の舞台稽古の風景が同時進行されていき、カットバックによって時間空間がテンポよく入れ替わっていく。 
 こうしてどんどんと映画的高まりのなかへと連れて行かれるのである。 
 さらに芝居好きのヴァイオラがこの新作のオーデションに男装で現れて、主役のロメオを演じることになるという仕掛けがそこに用意されているのだ。(当時の演劇は女性が舞台に上がることを禁止されていた。) 
 これはシェークスピアの「十二夜」の焼き直しでもあり(パルトロウ演ずるヴァイオラの名前もこの「十二夜」から採られている。)、これによって物語をなおいっそう複雑で魅力のあるものにしているのだ。 
 見事なアイデアと構成である。 
 シナリオを書いたのが戯曲「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を書き、自ら映画化もしたというトム・ストッパートとハリウッドの脚本家マーク・ノーマンのふたりということで大いに頷けるのだ。 
 シェークスピア劇に造詣の深いストッパードとハリウッドのエンターテインメント性に長けたマーク・ノーマンのチームワークの良さがこの見事な物語を紡ぎだしたのである。 
  そしてこのラブ・ロマンスをさらに味わい深いものにしているのが上品なコメディ・センスである。 
 ユーモアあふれるセリフや場面がつぎつぎと登場してきて飽きさせない。 
 そしてその笑いの要になるのが劇場主ヘンズローを演じるジェフリー・ラッシュである。 
 さらにエリザベス女王を演じて助演女優賞に輝いたジュディ・リンチであり、高利貸しフェニマンを演じたトム・ウィルキンソンなどである。 
 こうした狂言回しが生き生きと動き回ることで主役ふたりのラブ・ロマンスがいちだんと輝いて見えてくるのである。 
 そして笑いとスリルを味わいながら巧みに感動のラストへと雪崩れ込んでいくのだ。 
 まさに映画的興奮と感動に満ちあふれた名作の登場である。 


 
製作総指揮 ボブ・ウェインスタイン/ジュリー・ゴールドスタイン
 製作 デビッド・パーフィット/ドナ・ジグリオッティ/ハーベイ・ウェインスタイン
エドワード・ズウィック/マーク・ノーマン
監督  ジョン・マッデン  脚本 マーク・ノーマン&トム・ストッパード
撮影 リチャード・グレートレックス 編集 デビッド・ギャンブル
美術 マーチン・チャイルズ 衣装 サンディ・パウエル 音楽 スティーブン・ウォーベック
出演 グゥイネス・パルトロウ/ジョセフ・ファインズ/ジェフリー・ラッシュ
コリン・ファース/ベン・アフレック/ジュディ・デンチ/トム・ウィルキンソン
サイモン・カロウ/ジム・カーター/マーチン・クラネス/イメルダ・スタントン
 
 
 
 
 
 
 
5/1 8mm
(99アメリカ)
 
  
 
 1970年代後半に「スナッフ」というゲテモノ映画が上映され、そのなかで行われた殺人がいかにも本物の殺人のように見えることからそれが果たして本物なのかどうかということがいささかスキャンダラスな匂いをさせながら議論されたことがあったが、これはそうした闇の世界のフィルムを扱った映画である。 
 シナリオは「セブン」で名をあげたアンドリュー・ケビン・ウォーカー、監督が「依頼人」「評決のとき」などジョン・グリシャム原作の映画化が続いているジョエル・シューマーカーである。 
  
 私立探偵トム・ウェルズ(ニコラス・ケイジ)に富豪の未亡人から夫が残した8mmフィルムについての調査の依頼が入る。 
 その8mmは若い女性が黒いマスクの男に惨殺される様子が撮された「スナッフ・フィルム」であった。 
 果たしてそれが本当の殺人なのか、そしてその女性は無事なのかどうか、夫の名誉のためにもそれを確かめてほしいとの依頼である。 
 ウェルズによる闇の世界への探索がこうして始まり、欲望うずまくアンダーグラウンドへと足を踏み入れていく。 
 年間100万人を越える行方不明者がいるといわれるアメリカ、さらにその多くがポルノや性犯罪との関わりが深いといわれるアメリカ、そうした背景を巧みに取り入れて作り上げた物語である。 
 闇の世界のいかがわしさや「スナッフ・フィルム」製作のおぞましさが暗い色調の映像でなかなか巧みに表現されていく。 
 またウェルズが闇の世界に侵入するにしたがって色彩を寒色系から派手な暖色系に変化させたり、ウェルズの泊まるホテルの部屋の天井を次第に低くすることで閉塞感をだすなどの工夫がなされている。 
 そして次第にその闇に染まっていくウェルズを例のごとくニコラス・ケイジが確かに演じていく。 
 また彼を闇の世界へと導いていく水先案内人であるポルノ・ショップの男をホアキン・フェニックスが演じているが、得体の知れない雰囲気を発散して、存在感がある。 
 「誘う女」で不良高校生を演じた頃はまだ少年の面影を残していたが、「Uターン」ではすっかり大人の男に変身し、さらにここでは怪しくいかがわしい男を好演している。 
 彼の存在によってアンダーな世界のリアリティがいっそう増しているように思われる。 
 目を離せないバイプレーヤーのひとりである。 
 さらにはもうひとり同じく目を離せないバイプレヤーが出演している。 
 「スナッフ・フィルム」製作を請け負うポルノの監督を気持ちよさそうに演じているピーター・ストーメアである。 
 彼もまた闇の世界に生息する男を怪しげに演じており、深い闇を感じさせるのに一役かっている。 
  
 こうした魑魅魍魎が跋扈する暗闇からどうやってウェルズが生還することができるのかといったところがさらなる見所となっている。 
 「セブン」とはいささか味わいは異なるものの同じ様な重苦しさを感じさせる映画である。 
 ウェルズ同様「悪魔と踊った」2時間であった。 
  

 
監督 ジョエル・シューマーカー 脚本 アンドリュー・ケビン・ウォーカー
撮影 ロバート・エルスイット 音楽 マイケル・ダナ 美術 ゲーリー・ワイズナー
出演 ニコラス・ケイジ/ホアキン・フェニックス/キャスリン・キーナー
ピーター・ストーメア/ジェームズ・ガンドルフィーニ/エイミー・モートン
アンソニー・ヒールド/クリス・バウアー/マイラ・カーター
 
 
 
 
 
 
 
5/2 ダブルチーム
(98アメリカ)
 
 
 
  今回のジャン・クロード・バンダムの映画を監督するのは香港活劇映画のベテラン、ツイ・ハーク監督である。 
 これは「ハード・ターゲット」のジョン・ウー監督についで二人目の中国人監督ということになる。  
 ケレン味たっぷりのツイ・ハークの演出がいかに新しいバンダム像を引き出せるかということが今回の起用の理由であろうが、そのねらいはそれほど成功しているとはいいがたい。 
 相棒にプロ・バスケットボールの異色選手、ロドマンを、さらに悪役にミッキー・ロークを起用して新味を出そうと試みているが、どちらも帯に長し、たすきに短しである。 
 クライマックスのアクションに虎を登場させたのも目先の面白さをねらってのことだろうが、虎の怖さが伝わらず、間延びした印象になっており却って逆効果であったようだ。 
 前作の「サドン・デス」の出来がよかっただけにちょっと残念だ。 
  

  
 監督 ツイ・ハーク 脚本 ドン・ジャコビー 撮影 ピーター・ポウ
出演 ジャン・クロード・バンダム/ロッドマン/ミッキー・ローク/ナターシャ・リンディンガー
 
 
 
 
  
 
 
5/2 ダークシティ
(98アメリカ)
 
 
   
 
 過去と未来が融合した独特の雰囲気をもったSF映画である。 
 題名が示すようにこの映画は太陽のない夜の都市が舞台になっている。 
 どこかウィーンを思わせるようなレトロな街で、登場人物たちは50年代ファッションで身を固めているが、時代はおそらく遠い未来の話なのであろう。 
 そしてこの過去と未来を融合したような映像が人間の記憶を題材にした物語に実にうまく合っている。 
 時空間が狂わされてしまった世界の謎が迷宮を思わせる暗い街のたたずまいから立ちのぼってくるようである。 
 その謎が次第に明らかにされていく展開も複雑ではあるがよく整理されて描かれており、なかなか見ごたえがある。 
 そして世界の終末を思わせるようなラストまでテンポよく突き進んでいく。 
 アレックス・プロヤス監督の並外れた力量を感じさせられる。 
 前作「クロウ」で見せた異空間造型のうまさはここでも同様であるが、「クロウ」で描いたパンクな未来社会とはまた違った世界を作りだしている。 
 どちらかといえばテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」や「12モンキーズ」の人工的な未来都市や時空の感覚に似た世界であるが、テリー・ギリアムのような屈折した感覚ではなく、もっと直裁でパワフルな世界である。 
 さらには海を目指し、行き着いた世界の果てのドアを開けるラストでは似た様な設定の「トゥルーマン・ショー」で感じたのと同様の感動が味わえた。 
 また主役に無名の俳優(ルーファス・シーウェル)を使い、脇をウィリアム・ハート、キーファー・サザーランド、ジェニファー・コネリーといった名のある俳優を起用する配役の妙にも感心させられた。 
  
 
製作総指揮 マイケル・デ・ルーカ/ブライアン・ウィッテン
製作・視覚効果 アンドリュー・メイソン 製作・監督・脚本 アレックス・プロヤス
脚本 レム・ドブス/デビッド・S・ゴイヤー 撮影 ダリウス・ウォルスキー
音楽トレバー・ジョーンズ 衣装デザイナー リズ・キーオー
出演 ルーファス・シーウェル/ウィリアム・ハート/キーファー・サザーランド
ジェニファー・コネリー/リチャード・オブライエン/イアン・リチャードソン
 
  
 
 
 
 
 
5/3 すべてをあなたに
(96アメリカ)
 
  
 
 これはまた愛すべき楽しさに満ちあふれた青春映画である。 
 トム・ハンクス初監督作品はロックバンドの若者たちの成功と挫折の物語である。 
 いわばアメリカ版「青春デンデケデケデケ」といった懐かしさと幸福感に溢れた映画である。 

 時代は1994年。前年にケネディ暗殺事件があったが、まだ泥沼のベトナム戦争には足を踏み入れていない束の間の平和のなかにあった時代の話である。 
 ペンシルバニア州の片田舎で電器店を手伝っているガイ(若い頃のトム・ハンクスそっくりなトム・エベレット・スコットが好演)は音楽好きで、深夜ひとりでドラムスの練習に励んでいるが、ある時知り合いのバンドのドラマーが腕を骨折したことから急遽ピンチヒッターをたのまれる。 
 そしてそのバンドに彼の力強いドラミングが加わったことで曲の印象が一変し、大学の音楽コンテストで優勝してしまう。 
 さらに町のライヴハウスからは出演を依頼され、その勢いでレコードを出し、それが大手のレコード会社に認められてあっというまにプロとしてデビューすることになる。 
 さらにデビュー曲「That Thing You Do」(すべてをあなたに)が全米ヒットチャートをかけ登っていく。 
 こうしたトントン拍子で人気者になっていく様子がノリのいいテンポで描かれていく。 
 うきうきとした高揚感が軽快な曲と熱狂するファンの熱といっしょに伝わってくる。 
 もうこれだけで十分この映画の魅力に引き込まれていく。 
 だがその夢物語も突然幕が引かれることになる。 
 レコード会社の戦略と衝突したバンドリーダーが突然バンドを降りたことでバンドは空中分解してしまう。 
 まさに青春の束の間の夢物語である。 
 そしてこの青春の馬鹿騒ぎと夢の終焉が時代の気分とも重なって、やがてやってくるベトナム戦争という暗い時代を暗示させているのである。 
 トム・ハンクスの初監督作はまことに見事な出来映えの青春映画であった。 
  


 
製作 ゲリー・ゴーツマン/ジョナサン・デミ/エドワード・サクソン
監督・脚本 トム・ハンクス 撮影 タク・フジモト
音楽 ハワード・ショア 編集 リチャード・チュウ
出演 トム・エベレット・スコット/ジョナサン・シャーチ/スティーブ・ザーン
イーサン・エンブリー/トム・ハンクス/リブ・タイラー
 
 
 
 
 
 
 
5/4 クライ・ベイビー
(90アメリカ)
 
 
  
 変態作家ジョン・ウォーターズの青春映画で、「シザーハンズ」と同じ年にジョニー・デップが主演した映画ということで以前からぜひ観たいと考えていた映画である。 
 先に観たトム・ハンクス初監督作「すべてをあなたに」と次ぎにひかえている「バンドワゴン」とどれもミュージシャンが主役の青春映画という共通性がある。 
 そして「すべてをあなたに」と同様に、この映画も大当たりであった。 
 主役のジョニーデップがプレスリー風のロッカーをやってかっこいいのは予想通りだが、それをとりまく仲間がどれも個性的でおもしろい。 
 とくにマシュマロがつぶれたような顔(そうとしか表現しようがない)の女優がとくに異彩を放っている。 
 またジョニー・デップのおばあちゃんもまるでカラミティー・ジェーンをモデルにしたような野性的な女で、孫たちの悪さを奨励するという型破りな年寄りである。 
 さらにジョニー・デップの父親にいたっては電気イスで処刑された死刑囚という設定なのである。 
 登場人物たちがみな規格外れのおかしな人間で、変態チックな面をもった連中ばかりである。 
 といって暗く危ない犯罪映画というわけではなく、歌とダンスで盛り上がる、陽気で爽やかな印象の青春映画なのである。 
 いってみれば「ブルース・ブラザース」ハイスクール版といった趣の映画である。 
 そういえばこの映画でも「ブルース・ブラザース」同様、監獄でプレスリーの「監獄ロック」ふうに歌い踊るというシーンが登場してくるのだ。 
 ジョニー・デップは俳優になる前は歌手志望であったというだけあって、歌と踊りは堂に入っており、なかなかカッコいい。 
 とにかくこれは50年代テイスト満載の実におしゃれな映画であり、最高に楽しめた。 
  
 
製作総指揮 ジム・エイブラハヌス/ブライアン・グレイザー
製作 レイチェル・タラレイ 監督・脚本 ジョン・ウォーターズ
撮影 デビッド・インスレー 音楽 パトリック・ウィリアムズ
出演 ジョニー・デップ/エイミー・ロケーン/スーザン・ティレル
ポリー・バーゲン/イギー・ポップ/ウィレム・デフォー
 
 
 
 
 
 
 
5/5 バンドワゴン
(96アメリカ)
 
  
  
 フレッド・アステアの有名なミュージカル「バンド・ワゴン」と同名の映画であるが、内容はまったく別物で、こちらははみ出し者の4人の若者がバンドを組んで悪戦苦闘するといった物語である。 
 歌はうまいのにシャイで人前では歌えないというヴォーカル。 
 理屈っぽくてよくしゃべるマザコンのドラマー。 
 短気で喧嘩っ早いベーシスト。そして何を考えているのかよくわからない釣り好きのギターリスト、こうした協調性のない、どのバンドにも受け入れてもらえない4人の若者がバンドを組んでアメリカ各地を旅してまわるというロード・ムービーである。 
 彼らはバンを買い、伝説のマネージャーが加わってトラブル続きの珍道中を繰り広げる。 
 けっこう味のある映画である。 
 監督のジョン・シュルツは、バンドのドラマーをやっていたという経歴をもっており、そんな経験がこの映画ではうまく生かされているようだ。 
 バンドのメンバーたちのトラブルなどを見ているとこういうことが実際のバンド活動でもあったのだろうと想像させられるのだ。 
 彼のほろ苦い青春グラフィティといえよう。 
  

 
監督・脚本 ジョン・シュルツ 撮影 ショーン・マウラー 音楽 グレッグ・ケンドール
出演 ケビン・コリガン/スティーブ・パルラベッチオ/リー・ホルムス
マシュー・ヘメシー/リザ・ケラー/ダグ・マックミラン
 
 
 
 
 
 
 
5/5 ウインター・ゲスト
(98イギリス)
 
 
 
  
 イギリスの俳優、アラン・リックマンの初監督作品である。 
 そして同じく彼が舞台で演出した作品の映画化作品でもある。 
 アラン・リックマンといえば「ダイ・ハード」や「ロビン・フッド」の悪役や「いつか晴れた日に」の大佐役で知られているが、もともとは舞台の俳優であり演出家でもある。 
 映画での重厚で端正な演技を観れば舞台出身者というのがうなずける。 
 そして今回は映画の監督に初挑戦である。 
 その端正な演技同様、美しく静かな画面の映画である。 
 海が凍りつく厳寒の港町が映画の舞台である。 
 ここに住む夫を亡くした娘(エマ・トンプソン)と老いた母親(フィリダ・ロー、エマ・トンプソンの実の母親)のかみ合わない関係、息子と港で出会った若い娘の未熟な愛、葬式に参列するために出かけようとするふたりの老婦人のさみしい日常、そして学校をズル休みしたふたりの少年の自由な時間、それが交互に描かれていく。 
 しかし、ごくありふれた日常があるだけで、劇的なことはなにも起こらない。 
 いや、ひたすら何も起こらないことを追い続けているかのようだ。 
 そして何も起こらない厳しい寒さのなかで、彼らはわずかな暖かさを求めているように見えてくる。 
 それも激しく求めるという風ではなく、ただひたすら身を縮めて待っている。 
 そんなふうに見えるのも、ここに描かれた風景が永遠に凍りついてしまったかのように思わせるせいでもある。 
 白く凍り付いた街のたたずまいは人々の孤独をさらに際だたせている。 
 そしてそこに流れるマイケル・ケイメンのピアノの旋律がそれをさらに掻き立てる。 
 そんな画面を見ていると、あるいはこの映画の主人公はこの街の風景そのものなのかもしれないと思えてくる。 
 「ウインター・ゲスト」とはこの厳寒の美しい風景だったのかもしれないとひとり納得してしまうのだ。 
 それほどこの映画の風景は印象的である。 
   

 
監督・脚本 アラン・リックマン 脚本 シャーマン・マクドナルド
撮影 シーマス・マクガベイ 音楽 マイケル・ケイメン
美術 エリ・グリフ/ベン・スコット
出演 エマ・トンプソン/フィリダ・ロー/シェイラ・レイド/サンドラ・ボウ
 
 
 
 
 
  
 
5/6 スライディング・ドア
(98アメリカ)
 
  
 
 だれでも一度や二度は「あの時もしもこうだったら」といったふうなことを想像してみたことがあるのではないだろうか。 
 この映画はそうした想像を映画にしたものである。 
 主人公のヘレン(グウィネス・パルトロウ)は広告代理店に勤めるキャリア・ウーマンである。 
 ある朝、遅れて会社に出勤したところわずかなミスを理由に突然クビにされてしまう。 
 落ち込んだ気分で地下鉄に乗ろうとするが、わずかの差でドアが閉まってしまう。 
 これがすなわち題名の「スライディング・ドア」というわけである。 
 ここでもうひとりのヘレンが現れて、今度はタッチの差で乗り込むことが出来るのだ。 
 こうして乗ることが出来なかったヘレンと乗ることが出来たヘレンのふたつの人生が同時進行で始まるのだ。 
 このわずかの差がその後のふたりの運命を大きく変えていくことになる。 
 ひとりは同棲相手の浮気の現場に遭遇して別れることになり、ひとりはそれを知らないままで過ごしていく。 
 別れたヘレンは新しい恋人とめぐりあい、さらにこれまでのキャリアを生かして事業を始め、さらに一方のヘレンはハンバーガーショップでアルバイトを始めるというふうに次第にその違いが大きくなっていく。 
 そんなふたりがある時は接近し、交錯しながら物語は進んでいく。 
 なかなか興味深いアイデアと、展開のおもしろさでどんどん話に引き込まれていく。 
 そして単純にどちらがいいとか悪いとかといった色分けをしないところが好感が持てる。 
 運命を大きく分けることになるが、一方がラッキーで、一方が不運でといったふうにならないところがなかなかにくい。 
 こういった人生もありえたんだといった姿勢でふたつの人生を見せてくれる。 
 そして意外なラストで、ちょっぴり人生の苦みと不思議さを見せてくれて、おもわずニヤリとさせられるのだ。 


 
製作 シドニー・ポラック/フィリッパ・ブレイスウェイト/ウィリアム・ホーバーグ
監督 ピーター・ホーウィット 撮影 レミ・エイドファラシン
音楽 デビッド・ハーシュフェルダー 美術 マリア・ジャーコヴィック
出演 グウィネス・パルトロウ/ジョン・ハンナ/ジョン・リンチ
 
 
 
 
 
 
5/7 GODZILLA(ゴジラ)
(98アメリカ)
 
 
 
 あまり評判のよくないアメリカ版「ゴジラ」だが、けっこうおもしろくて楽しめた。 
 劇場で観ていればゴジラがニューヨークを走り回る映像などにもっと迫力を感じたに違いない。 
 日本版「ゴジラ」との違いを云々するむきもあるようだが、まったく別物として割り切って観るべきものであろう。 
 後半は「ジュラシックパーク」の焼き直しだが、それなりにおもしろい。 
 とにかくこうした種類の映画はあまりとやかく理屈を言わないで単純に身を委ねて観るのが正しい見方のような気がするのだ。 
  

 
製作・脚本 ディーン・デブリン 監督・脚本 ローランド・エメリッヒ
撮影 ユーリ・スタイガー VE フォルカー・エングル
出演 マシュー・ブロデリック/ジャン・レノ/マリア・ピティロ/ハンク・アザリア
 
  
 
 
 
 
5/17 ペイバック
(99アメリカ)
 
 
  
 「リーサル・ウェポン」「身代金」「陰謀のセオリー」などのアクション映画でタフな男を演じ続けているメル・ギブソンが「L.A.コンフィデンシャル」の脚本でアカデミー脚色賞を受賞したブライアン・ヘルゲランドと組んで初の悪役に挑んでいる。 
 ブライアン・ヘルゲランドはこれが初監督である。 
 原作はリチャード・スタークの小説「悪党パーカー/人狩り」で、かってリー・マービン主演で「殺しの分け前/ポイント・ブランク」の題名で映画化されている。 
 といったことで当然今回の映画ではメル・ギブソンがどんな悪党ぶりを見せてくれるかといったところがみどころのひとつになってくる。 
 映画はもぐりの医者がメル・ギブソンの背中の銃弾を乱暴に取り出すシーンから始まる。フィルム・ノワールっぽい謎を秘めたなかなか快調な滑り出しである。 
 そして続くタイトルバックの場面では元気になったメル・ギブソンが手慣れた悪党ぶりを発揮する。 
 いかさまホームレスの金を横取りしたり、レストランではウェイトレスにチップを払わずに逆に彼女のたばこをポケットにしまいこみ、すれちがった男のサイフをすってカードでスーツや時計の買い物をし、それを質屋にもちこんでの換金といった行動がテンポよく描かれる。 
 いかにも手慣れたプロの仕事だといった調子が画面から伝わってくる。 
 さらには麻薬中毒の女の部屋に強引に押し入って彼女を監禁してしまう。 
 実はそれが仲間とふたりでチャーニーズ・マフィアから金を奪い取った際に彼を裏切った妻であるということがわかってくる。 
 冒頭の背中の銃傷がその時に妻から撃たれた傷であったということも回想によって説明されていく。 
 そして彼女が目を盗んでうった麻薬がもとでショック死してしまったところからメル・ギブソンの報復と金の奪還が始まるのである。 
 と、ここまではフィルム・ノワールっぽいいい雰囲気で、これまでの映画と違ったものが見られそうだと期待させられるのだが、以後は次第にいつものメル・ギブソン節へと変わっていってしまうのだ。 
 それはそれとして割り切って観ればそれなりに楽しめるのだが、やはりなんとなくはぐらかされたような印象をひきずってしまうのだ。 
 彼の金を握っているマフィアの組織、彼を利用しようとする悪徳刑事たち、さらには彼の命を狙うチャイニーズ・マフィアの一団が入り乱れてのにぎやかなアクションはそれなりの工夫がしてあって面白いが、孤軍奮闘のメル・ギブソンがいつのまにか「リーサル・ウエポン」のリッグス刑事と見分けがつかなくなってしまうのだ。 
 結局ブライアン・ヘルゲランドの初監督作はメル・ギブソンのこれまでのイメージをうち破ることもなく、彼の強烈な個性に押し切られてしまったというところである。 
  
 
製作総指揮 スティーブン・マケビーティ 製作 ブルース・デイヴィ
監督・脚本 ブライアン・ヘルゲランド 原作 リチャード・スターク
脚本 テリー・ヘイズ 音楽 クリス・ボードマン
出演 メル・ギブソン/デボラ・アンガー/ジェームズ・コバーン
クリス・クリストファーソン/デビッド・ペイマー/ビル・デューク
マリア・ベロ/ルーシー・リュウ
 
 
  
  
 
 
5/20 ロスト・イン・スペース
(99アメリカ)
 
 
  
 昔の人気テレビドラマ「宇宙家族ロビンソン」を現代のSFXで蘇らせた映画である。 
 主演はこれまでSF映画にはあまり縁のなかったウィリアム・ハート(かって「アルタード・ステーツ」というSF映画に出演したことはあるが)が起用されているが、これはこの映画の柱のひとつ、家族愛を描くという観点からの選択のように思える。 
 さらに対立する敵役にゲーリー・オールドマンをキャスティングしたところなどはバランスのとれたところで、芝居上手の両者がどんな演技を見せてくれるかといったところも興味深い。 
 しかしSF映画でそうした期待をするのはあまり意味のないことだったというのが結論だ。 
 はっきり言ってなにも彼らである必要はなかったし、彼らのよさが引き出されているというわけでもない。 
 確かに家族愛というドラマが盛り込まれてはいるが、それは単なる味付け程度のものでしかなく、これはあくまでもダイナミックなSFXを楽しむだけの映画だったということだ。 
 というわけでドラマ部分が弱いということもあってせっかくよくできたSFXもいまいち迫力を感じられなかったのである。 
  

 
製作 マーク・W・コッチ/カーラ・フライ
製作・監督 スティーブン・ホプキンス 制作・脚本 アキバ・ゴールズマン
撮影 ピーター・レヴィ 音楽 ブルース・ブロートン
出演 ウィリアム・ハート/ゲイリー・オールドマン/ミミ・ロジャース
ヘザー・グラハム/レイシー・シャベール/ジャック・ジョンソン
 
 
 
 
 
 
5/24 ラストゲーム
(98アメリカ)
 
 
 
 父と息子の対立と和解という問題は永遠のテーマである。 
 スパイク・リーはこの問題をバスケットボールを通して描こうとする。 
 スパイク・リー自身、強烈なNBAファンであることはよく知られているが、そんな彼のバスケットボールへの愛着の強さが感じられる映画だ。 
 タイトルバックに挿入される街角で若者たちがバスケットを楽しむ様々なシーンを見ていると、バスケットボール・ファンならずともその躍動感に次第に魅入られていく。 
 スパイク・リー作品ではお馴染みのデンゼル・ワシントンが今回は息子との確執を越えて新しい絆を取り戻そうとする父親役を演じている。 
 彼は幼い息子を一流のプロバスケットの選手に育てようとしているいわばアメリカ版「星一徹」のような父親である。 
 それはアフリカ系アメリカ人である彼らが低所得者層から抜け出すことができる強力な方法であるという信念に支えられたものである。 
 おそらくこうした父親はアメリカにおいてはけっして珍しい存在ではないのだろう。 
 多くの父親たちがこうした方法でアメリカンドリームの実現を夢見ているのではなかろうか。 
 そしてごく稀にそれが現実のものになる時がある。 
 映画では父親が望んだように息子が全米の各チームから強烈な勧誘を受けるような選手に育つのである。 
 そして激しい獲得競争の嵐にさらされることになる。  
 そのニュースをデンゼル・ワシントン演ずる父親は刑務所のなかで知らされる。 
 彼は不幸な事故により最愛の妻を殺した罪で服役中なのだ。 
 そしてそんな彼にも加熱する獲得競争の波が押し寄せてくる。 
 州知事の依頼を受けた刑務所長から彼に息子を「ビッグ・ステイツ大学」に入学させるようにという要請がなされるのである。 
 そしてもしそれが実現すれば刑を軽減しようという交換条件が提案されるのだ。 
 こうして一週間という期限付きで釈放されることになり、6年ぶりでふたりが再会することになる。 
 だが母親を殺したことで父親を憎んでいる息子は彼の出現を喜ばない。 
 歩み寄りのないふたりの溝が果たして埋めることができるのか、さらには息子を「ビッグ・ステイツ大学」に入れることができるのかといった興味をひきずりながら物語が描かれていく。 
 さらに彼らに関わる人間たちの様子がていねいにシャッフルされて描かれていく。 
 デンゼル・ワシントンと若い娼婦のどん底での孤独な触れ合い、息子ジーザスに金目当てで群がる人々、ディーラーからの強力なアタック、さらにそれにからんだ恋人の裏切り、そういったことがふたりの確執と同時進行で描かれていく。 
 そして通りいっぺんの和解とならない感動的なラストへと続いていくのである。 
  
  この映画でデンゼル・ワシントンがこれまでの役柄になかった新しい側面を見せてくれた。そして息子を演じる現役NBAプレーヤーのレイ・アレンを相手になかなかうまいバスケットも見せてくれるのだ。 
  
 
製作 ジョン・キリク 製作・監督・脚本 スパイク・リー
撮影 マリク・ハッサン・セイード 音楽 アーロン・コープランド
出演 デンゼル・ワシントン/レイ・アレン/ミラ・ジョヴォヴィッチ
ロザリオ・ドーソン/ゼルダ・ハリス/ネッド・ビーティ
 
 
 
 
 
 
5/29 SAMURAI FICTION
(98日本)
 
  
  
 古い革袋に新しいワインを詰めた映画というか、新感覚時代劇と呼びたいような映画である。 
 監督はこれが長編劇映画初監督という中野裕之。MTV界ではすでに有名な存在らしく、この映画にもミュージシャンが大勢出演しており意外なキャスティングにニヤリとさせられる。 
 まず主役のひとり風祭蘭之介を演ずる布袋寅泰。さらに藤井フミヤ、藤井尚之兄弟。 
 近藤房之介、ダイヤモンド・ユカイ等々、初めての時代劇映画に意欲的かつ楽しんで取り組んでいるのが画面から伝わってくる。 
 とくに布袋寅泰が重要な役を見事な存在感で演じており強い印象を残す。 
 妖気をはらんだ剣の達人、風祭蘭之介の得体の知れなさが彼のキャラクターとうまく合っており、風間杜夫、吹越満らの芸達者を相手に一歩もひけをとっていない。 
 さらにこの映画の音楽も担当しており、新感覚時代劇の一翼を担っているのである。 
 この他にも中島らもの友情出演、神戸浩、マルセ太郎、夏木マリ、谷啓といった個性的な俳優の個性的な演技が楽しめる。 
 またMTV出身の監督らしい凝った映像もこの映画の見所である。 
 モノクロ映像へのこだわりが時代劇らしいいい味わいを醸し出している。 
 とにかく若々しい感覚に満ちた映画である。 
 不振の日本映画界にとってこの映画はいい刺激になるのではなかろうか。 
  

 
製作 伊藤 満 監督 中野裕之 脚本 斎藤ひろし
撮影 矢島祐次郎 音楽 布袋寅泰
出演 吹越満/風間杜夫/布袋寅泰/緒川たまき/内藤武敏
谷啓/夏木マリ/神戸浩/藤井尚之/中島らも/中村有志/大沢健
藤井フミヤ/きたろう/マルセ太郎/岩松了/近藤房之介/ダイヤモンド・ユカイ
 
 
 
 
 
 
5/31 普通じゃない
(98アメリカ)
 
 
  
 「トレインスポッティング」の成功によってハリウッドから映画製作の要請を受けた「トレスポ」チームがアメリカに渡って挑んだのが犯罪映画の装いを施したロマンティック・コメディ「普通じゃない」である。 
 主役はもちろんダニー・ボイルの映画に欠かせないキャラクターのユアン・マクレガーである。 
 そしてそのロマンスの相手を今が旬の女優、キャメロン・ディアスがつとめており、彼らを結びつける使命を帯びた天使をホリー・ハンターとデルロイ・リンドーが演じている。 
 ハリウッド的ファンタジーを「トレスポ」チームがどう咀嚼し描いていくのかといった点に興味がそそられるが、結果は可もなく不可もなくといったところである。 
 「トレインスポッティング」よりもむしろ「シャロウグレイプ」に近い味わいをもったこの映画は出足はなかなか快調で、ひょんなことで誘拐事件を起こしてしまった犯人のユアン・マクレガーと被害者のキャメロン・ディアスのどちらが誘拐犯かわからないような主客転倒した笑いにその後の展開を期待させられるが、以後は快調とはいかず少々退屈させられてしまった。 
 ユアン・マクレガーが事件に終止符をうとうと彼女をバーに誘い、話が妙な方向に発展してしまい、酒に酔った勢いでカラオケで歌い踊るところなどはハリウッド的な陽気さに心躍らされるが、その後の恋の行方がいまいち納得のいく展開にはなっていかないのだ。 
 いささかもたつきを感じてしまう。 
 「普通じゃない」ことに気を取られ過ぎて、肝心のロマンスの書き込みが不足してしまったような印象なのである。 
 といったことで心楽しいはずのハッピーエンドでもそれほどカタルシスを感じることができないままに終わってしまったのである。 
  

 
製作:アンドリュー・マクドナルド 監督:ダニー・ボイル
脚本:ジョン・ホッジ 撮影:ブライアン・タファノ
出演:ユアン・マクレガー/キャメロン・ディアス/ホリー・ハンター
デルロイ・リンドー/イアン・ホルム/ダン・ヘダヤ/モーリー・チェイキン
 
 
 
 
 
 
 
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