森崎東監督が久々にメガホンをとった映画である。
浅田次郎が直木賞を受賞した小説「鉄道員(ぽっぽや)」とともに短編集に収められた「ラブレター」が原作になっている。
中井貴一演じる新宿、歌舞伎町のチンピラ・ヤクザが金のためにある中国人女性と偽装結婚をするが、それがきっかけで予想もしなかったような切ない体験をすることになる。
その顛末を切々とつづった現代のお伽噺といった趣の物語である。
現代社会の坩堝のような歌舞伎町でポルノ・ショップの店長をやっている中井貴一の周辺には様々な落ちこぼれ人間たちが徘徊している。
猥雑な人間たちを描くことを得意としている森崎東監督は軽快なタッチで彼らをスケッチしていくが、さすがに年季が入っているだけにソツがない。
さらに彼の別れた奥さんや娘との関係もともにスケッチされていくにしたがって彼のだらしのない生活や孤独な姿が浮かび上がってくる。
だからこそ兄貴分の男(根津甚八)から強引に言い含められると簡単に偽装結婚の相手になることを承知してしまうのだ。
そして気軽に考えていたこの偽装結婚が彼の人生に強いインパクトを残し、彼の人生さえも変えてしまうことになるのである。
いささか強引とも思える物語を森崎東監督は破綻なくていねいに描いており、ごく自然に感情移入されていく。
そしてクライマックスの「ラブレター」を読むくだりでは素直に泣かされてしまうのだ。
生きていくことの侘びしさ、辛さを不法入国という社会問題にからめて巧みに描いた映画である。
監督・脚本 森崎東 原作: 浅田次郎 「鉄道員-ぽっぽや-」より
脚本 中島丈博 撮影 浜田毅 音楽 松村禎三 美術:重田重盛
出演 中井貴一/コウ・チュウ山本太郎/根津甚八/倍賞美津子
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