2000年1月 NO.2
  
 
 
 
 ENPIRE RECORDS
1/12  エンパイア・レコード

●製作:アーノン・ミルチャン/マイケル・G・ネイザンソン/トニー・ルドウィグ 
●監督:アラン・モイル ●脚本:キャロル・ヘイッキネン ●撮影:ウォルト・ロイド 
●出演:リヴ・タイラー/アンソニー・ラパグリア/マックスウェル・コールフィールド 
 デビ・メイザー/ジョニー・ホイットワース/ロビン・タネイ/レニー・ゼルウェガー 
 ロリー・コクレイン/イーサン・ランドール 
95年アメリカ作品

 大手レコード・チェーン店に買い取られようとしているレコード・ショップ「エンパイア・レコード」での騒々しい一日を歌あり、踊りありの盛りだくさんで見せてくれる青春映画。 
 リブ・タイラーはじめこの店で働くバイトの若者7人がみなちょっと普通ではないはみだし者たちで、それぞれに青春の不安や悩みを抱えているというところは、こうした青春ものにありがちなお決まりの設定である。 
 だが、そうした彼らの抱えた問題を青春期特有のばかばかしさや未熟さをベースに賑やかに描いて行くところはなかなかいい。 
 また思いこみや独りよがり、さらにはナイーブさやあやうさといった要素も盛り込みながら、いささか暴走気味に展開していく。 
 そして最後は若者らしい身軽さで問題解決へと突き進んでいくあたりも、勢いがあって面白い。 
 あまりいろいろ考えないで、軽い気持ちで楽しみたい時にはこんな映画もいいだろう。

 
 
 
LITTLE VOICE
1/13  リトル・ヴォイス

 
98年イギリス作品
●監督・脚色:マーク・ハーマン 原戯曲・脚色:ジム・カートライト 
「The Rise and Fall of Little Voice」 
●製作総指揮:ニック・パウエル/スティーブン・ウーリー 
●製作:エリザベス・カールセン ●撮影:アンディ・コリンズ 
●編集:マイケル・エリス ●音楽:ジョン・アルトマン 
●出演:ジェイン・ホロックス/ユアン・マクレガー/ブレンダ・ブレッシン 
 マイケル・ケイン/ジム・ブロードベント/アネット・バッドランド/フィリップ・ジャクソン 

 「ブラス」でわれわれ映画ファンの胸を熱くさせてくれたマーク・ハーマン監督の新作は今度も音楽を題材にした映画「リトル・ヴォイス」である。 
 自閉症気味の少女LV(エルヴィ)の毎日は外出もせず、部屋に閉じこもっては死んだ父親が残したレコードを日がな一日聴いているというものである。 
 そんなふうにレコードを繰り返し聴くことで大好きだった父親を思いだし、彼女の孤独な心は慰められる。 
 そしていつか彼女はレコードから流れるジュディー・ガーランドやマリリン・モンローといった歌手の歌声そのままに歌うことができるという才能を発揮する。 
 ある夜、母親が家に連れ込んだ音楽プロモーターのレイ・セイがその歌を偶然耳にしたことから彼女の運命は大きく変わることになる。 
 人前ではけっして歌おうとしなかった彼女がレイ・セイの巧みな説得に動かされ「一度だけなら」という約束で舞台に立つところがこの映画のクライマックスである。 
 彼女をかごの鳥に見立てて作られた金色の鳥かごからおそるおそる舞台の中央に進み出て、静寂を破るように歌い出すシーンは涙が流れるほど感動的だ。 
 それはまるで奇蹟が起きる瞬間に身をおいたような感動である。 
 それまでのほとんど言葉も発せずに、内に閉じこめていた感情が歌と共にまさに堰を切ったようにという形容そのままに迸り出てくるのである。 
 「これこそが本当の私の姿よ、私を見て」まるでそう叫んでいるような歌声である。 
 こうしてこの一夜限りのステージをきっかけに彼女が自立への第一歩を踏み出していくようになるまでが感動的に描かれていく。 
 「ブラス」に続いてまたしてもマーク・ハーマン監督が見事な映画を見せてくれたのである。 
  
 主役のLVを演じるのは舞台でも同様の役を演じたジェイン・ホロック。まさに適役である。 
 ステージでの歌声も吹き替えなしに彼女自身が歌っており、その素晴らしい歌唱力に酔ってしまう。 
 また彼女に惹かれ、彼女を優しく見守る青年をユアン・マクレガーが静かに好演している。 
 彼が鳩を愛する孤独な青年という設定がなかなかいい。 
 いかにも他人とのコミュニケーションのとり方が苦手というこの青年の性格が窺えるような設定である。 
 そして孤独なふたりが惹かれ合うという展開がこのことでよりいっそう説得力をもったものになってくる。 
 さらにブレンダ・ブレッシンがLVのことを理解しようとしない口うるさい母親を演じているが、これは「秘密と嘘」「ガールズ・ナイト」で演じた控えめで弱々しい女性とはまるで正反対のはすっぱでがさつな女である。 
 彼女の自分勝手で男好きな性格がLVの自閉症の大きな原因を作っているのだが、そんなことは考えたこともないというデリカシーのない女をブレンダ・ブレッシンがこれまでのイメージを変えて見事に好演している。 
 またそれに加えて名優マイケル・ケインの力演が光っている。 
 LVの才能の第1発見者であり、彼女をなんとか売りだそうと全財産をつぎ込むが、結局は一度だけしか歌わせることが出来なかったために目論見がすっかり外れてしまったという男の無念さをなかなか味のある演技で演じている。 
 おまけにLVが出演しなくなった舞台でLVに変わって、その無念さをこめた歌まで披露することになるのである。 
 なかなかの役者ぶりを見せてくれるのだ。 
  
 結局かごの鳥は彼の思惑どおりには歌ってくれなかったというわけである。 
 彼女のほんとうの願いは人前で歌うことよりもかごの中から飛び立つことにあったのだから。 
 そしてそんな願いをこめたようなラストの姿がなんとも微笑ましい。

 
 
 
 NIRVANA
 1/13  ニルヴァーナ

96年フランス・イタリア作品
●監督・原案・脚本:ガブリエレ・サルヴァトレス ●製作総指揮:マウリツィオ・トッティ 
●製作:リタ・チェッキ・ゴーリ/ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ 
●脚本:ピノ・カカッチ/グロリア・コルシア ●撮影:イタロ・ペットリッチョーネ 
●音楽:フェデリコ・デ・ロベルティス/マウロ・パガーニ 
●出演:クリストファー・ランバート/ディエゴ・アバタントゥオーノセルジオ・ルビーニ 
 ステファニア・ロッカ/エマニエル・セイナー/アマンダ・サンドレッリ 

 「ブレードランナー」と似た世界観をもったSF映画である。 
 近未来社会の設定がハイテクとインド、アラブ、中国、日本といった東洋テイストをごちゃまぜにした造型になっているあたりは、もろに「ブレードランナー」の世界である。 
 また主人公が開発中のコンピュ−ター・ゲーム、ニルヴァーナ(涅槃)のなかのキャラクターが突然人間と同じような自我をもち、永遠に終わることのない殺人ゲームを繰り返さなければならないことを嘆き悲しむあたりも、「ブレードランナー」でのレプリカントの哀しみに通じるものである。 
 ただし「ブレードランナー」のような確固とした世界観や深遠さはなく、映画としては薄っぺらな印象だ。 
 フランス映画「ロスト・チルドレン」や「ドーベルマン」でも感じたことだが、どうもヨーロッパ発のサイバーパンクはいまひとつノリがよくない。 
 アメリカ映画のようなストレートさがなく、変に屈折してしまうところが好きになれない。 
 この映画でも映像的にはおもしろいイメージを見せてくれるのだが、それを上回るような展開は見られない。 
 アートとしてのみ楽しむぶんにはいいかもしれないが、スカッとするようなアクションやサスペンスを期待するむきにはいささか役不足といわざるをえない。

 
 
 
  
1/14  雷魚

●監督・脚本:瀬々敬久 ●脚本:井土紀州 ●製作:福原影 
●撮影:斉藤幸一 ●編集:酒井正次 ●音楽:安川午朗 
●出演:佐倉萌/伊藤猛/鈴木卓爾/穂村柳明/のぎすみこ 
 外波山文明/佐野和宏/岡田智弘/河名麻衣/佐々木和也 
  
97年国映/新東宝作品

 最近、時おり名前を耳にするピンク映画の監督「瀬々敬久」が撮った2本目の一般映画。 
 なんのつながりもない3人の男女が交錯するなかで、女による理由なき殺人が行われる。 
 そしてそれに続いてもうひとりの男が女を殺す。 
 行き場を失った人間たちの心の空洞がふとしたことから狂気へと走らせる。 
 青、黄、赤といったフィルターで色づけされた「意味」を拒絶してしまったような不条理な映像がアンニュイな気分を孕みながら続いていく。 
 町を流れる川、ラブ・ホテルのシャワー、こうした映像が繰り返し撮されて、水が印象的だ。 
 おそらくそれがこの映画のキーワードのひとつにちがいない。 
 不可解な点がいくつかあるものの、時にハッとさせるようなイメージが挿入されて意外と退屈しない。 
 不思議な感覚の映画である。 
 実際に男が捕らえた「ライ魚」が登場するが、図体はでかいにもかかわらず、食用にもならないゲテモノのこの魚の存在が映画そのものを暗示しているかのようにも思えてくる。

 
 
 
 
1/14  夏時間の大人たち

●監督・脚本:中島哲也 ●製作:宝田晴夫 
●撮影:阿藤正一 美術:寒竹恒雄 ●音楽:菅野よう子 
●出演:日高圭智/岸部一徳/菜米のり子/中村久美/島村千草 
 田口寛子/根津甚八/石田えり/余貴美子/藤井かほり/青木典子 
  
97年度作品

 逆上がりができない小学生の日常を母親の少女時代の記憶とからませながらコミカルに描いた作品である。 
 CM界で活躍する中島哲也が自らシナリオを書いた初監督作である。 
 少年の父親役の岸部一徳が交通事故で痛めた首にギブスをはめて、日がな一日窓の側に座って外を眺め暮らしている様子が、まるでつげ義春の「李さん一家」のようでおかしい。 
 そして口にすることといえば「晩御飯はまだか?」という一言だけ。 
 幸せぼけしているというか、時間が停滞してしまったような夏の気だるい昼さがりといった雰囲気がなかなかおもしろい。 
 そして母親はといえば、いつものようにテレビのメロドラマに夢中である。 
 「愛欲の彼方に」という題名のそのメロドラマを演じているのが根津甚八、余貴美子、石田えりといった俳優たちで、テレビをつけるたびに根津甚八が「また過ちを犯してしまった」というセリフを呟くのがおかしい。 
 そしてそのセリフを聞くたびに少年が「自分も努力をしないでいるとこんな大人になってしまうのかな」などと考えてしまうのである。 
 とぼけた味わいのなかにふっと懐かしくなるようなノスタルジーを感じさせる映画である。

 
 
 
 
1/17  御法度

●監督・脚本:大島渚 ●プロデュニサー:大島瑛子・中川滋弘・清水一夫 
●製作:大谷信義 ●原作:司馬遼太郎 ●撮影:栗田豊通 
●美術:西岡善信 ●衣装デザイン:ワダエミ ●音楽:坂本龍一 
●出演:ビートたけし/松田龍平/浅野忠信/武田真治/トミーズ雅/田ロトモロヲ 
 崔洋一/的場浩司/伊武雄刀/坂上二郎/柱ざこば/神田うの/吉行和子 
1999年/製作:大島渚プロダクション/製作・配給:松竹

 大島渚13年ぶりの劇映画は時代劇「御法度」である。 
 過去、彼は東映で唯一の時代劇「天草四郎時貞」を撮っているが、この時から数えると実に37年ぶりの時代劇ということになる。 
 さらにはこの映画の製作発表を行った直後に大島渚監督が脳梗塞で倒れるというアクシデントに見舞われ、その結果半身不随の身体になったが、長期のリハビリでなんとか映画を撮れるまでに回復し、ようやくにして完成させたという経緯があった。 
 またこの作品と前後して、かつてともに松竹ヌーベルバーグの一翼を担った篠田正浩監督が、こちらも同じく司馬遼太郎の原作で時代劇を完成させており、偶然ではあるが、そんなふたりの競演という形にもなったのである。 
 こうした舞台裏の諸事情が重なったこともあって、ファンとしては感慨深い気持ちでこの映画を観ることになったのだ。 
  
 この映画「御法度」は司馬遼太郎の小説を原作にしてはいるものの、ここで描かれる世界は大島独自のものだ。 
 「戦場のメリークリスマス」でも描かれたような男の集団における「死とエロス」の世界が大島独特の視線によって描かれている。 
 だがここではかっての大島渚の映画がもっていたような形而上的な難解さは極力押さえられており、エンターテインメントな要素を適度にちりばめた独特の美意識によって貫かれている。 
 そしてそれを支えているのが優秀なスタッフたちの力であり、個性的なキャストの面々である。 
 まず深みのある映像を作り出しているのはハリウッドの第一線で活躍するカメラマンの栗田豊通である。 
 彼は今回の撮影ではフィルムを脱色して色を抑えるという方法で時代の暗い奥行きを表現しており、さらには美術の西岡善信を代表とする京都映像のスタッフたちが見事なセットを作りだして、その効果を後ろから支えている。 
 またワダ・エミが従来の馴染みのある新撰組の衣装とは違った独創的なデザインで新撰組という男の集団の明と暗を表現し、坂本龍一の音楽がこの一種幻想味を帯びた物語に複雑な輝きを与えているのである。 
 そしてキャスティングにおいてはいつもの大島らしい意表をついた独創性を発揮しているのだ。 
 まず主役の美貌の少年・加納惣三郎には新人の松田龍平。 
 彼が故、松田優作の長男ということはもうすでによく知られたことだが、彼を起用したことでほぼこの映画の大枠のイメージは決まったといえるだろう。 
 彼の少年とも少女ともつかぬあやうい雰囲気が新撰組という男臭い組織に微妙な揺らぎを与えることになる美貌の少年のイメージにピッタリである。 
 そして彼を中心に浅野忠信、武田真治というふたりの若手二枚目を配し、片やそれに対してビートたけし、崔洋一というふたりの映画監督を、さらには周辺にトミーズ雅、坂上二郎、田口トモロヲといったクセのある俳優たちを並べるという凝りようである。 
 こうして一種異様なの狂気を秘めた男の世界が出来上がり、そこで展開される摩訶不思議な物語が独特の色彩を帯びて迫ってくる。 
 この映画では場面転換にワイプが使われたり、サイレント映画のような字幕が挿入されたりといった古い手法が多用されているが、これが逆に新鮮で、いいリズム感や雰囲気を出している。 
 このことでも分かるように、ここでの大島渚の姿勢は終始正攻法であり、それが画面に張りつめた緊張感や重厚感をもたらしている。 
 エンド・クレジットの先の物語をまだまだ見続けていたいと思わせる映画であった。

 
 
 
 
 
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