2007年10月12日
 
 
世界最速のインディアン
THE WORLD'S FASTEST INDIAN
 
 
2005年アメリカ作品。  上映時間127分。 監督/製作/脚本: ロジャー・ドナルドソン  製作: ゲイリー・ハナム  撮影: デヴィッド・グリブル  プロダクションデザイン: J・デニス・ワシントン (アメリカ)/ ロブ・ギリーズ (ニュージーランド)  編集: ジョン・ギルバート  音楽: J・ピーター・ロビンソン  出演: アンソニー・ホプキンス/ クリス・ローフォード/ アーロン・マーフィ トム/ クリス・ウィリアムズ/ ダイアン・ラッド/ パトリック・フリューガー/ ポール・ロドリゲス/ アニー・ホイットル/ グレッグ・ジョンソン/ アントニー・スター/ ブルース・グリーンウッド/ ウィリアム・ラッキング/ ウォルト・ゴギンズ/ エリック・ピアポイント/ ジェシカ・コーフィール/ クリス・ブルーノ
 
 映画の愉しみ方にはさまざまなものがある。 
 物語の面白さを愉しむこと、見たこともない世界を味わうこと、迫力ある映像を愉しむこと、人それぞれ、また作品それぞれにさまざまな愉しみ方がある。 
 そんな愉しみ方のひとつに映画で魅力的な人物、興味を惹かれる人物と出会うというものがある。 
 この映画はまさにそんな一本である。 
 アンソニー・ホプキンス演じる主人公バート・マンローは実在の人物である。 
 1899年、ニュージーランドで生まれた彼は21歳のとき1920年型中古バイク「インディアン・スカウト」に出会い、その魅力にとりつかれる。以来そのバイクを改良してはスピード記録を目指すようになる。 
 そして63歳でアメリカ、ユタ州ボンヌヴィルのスピード大会に出場、世界新記録を打ち立てる。 
 以後、出場するたびに記録を更新、68歳のときに出した自己最高記録は、いまだ破られていない。 
 映画はそんなマンローがアメリカへ初めて旅立ち、世界新記録を打ち立てるまでを描いたものだ。 
 年金生活をしている彼がいかにして記録樹立を果たしたか、それをさまざまな人々との出会いを通して描かれていくが、そのエピソードのひとつひとつの積み重ねが面白く、ロードムービー形式で進行していく旅がいつまでも続いていってほしいと思わせる。 
 こうした旅のお決まりで、行く先々でさまざまな困難に直面することになるが、彼は悠揚迫らぬ態度で対応していく。 
 あわてず騒がず、目の前の現実を素直に受け入れ、冷静に対応していく姿は、伊達に歳を重ねているのではない年輪の確かさと知恵の蓄積を感じさせる。 
 老いるということは柔軟さを失うということだ。身体の柔らかさが時間の経過とともに失われていくのと同時に精神の柔らかさも失っていく。それが老いということだろう。 
 だが、バート・マンローは云う。「心はずっと18歳」であると。 
 肉体は狭心症と前立腺肥大という持病をもちながらも、心はまだまだ柔らかく、若さを失っていない。 
 年寄り特有の頑迷さはなく、偏見で物事を見るということもない。 
 そんな彼の人間性が出会う人たちを魅了していく。 
 そして見知らぬ土地で戸惑っている彼に彼らはみな自然と手を差し伸べていくようになる。
 ホテルの受付嬢、実はオカマの青年、中古自動車のセールスマン、年老いたインディアン、そして荒野でひとり生きる初老の女性、社会的に弱い立場に立つ人間たちがマンローを助け、協力していく。
 その手助けをマンローも素直に受け入れていく。すべてに自然体なのである。 
 そんな協力者のなかでも最大の理解者であり相棒となるのが、マンロー家の隣に住む少年トムである。
 両親の目を盗んではマンローのバイク小屋に入り浸り、マンローのいい話し相手になったり、使い走りをしたりといった至福の時間を過ごすのである。
 老人と少年、この両者の組み合わせは、さまざまな物語の中で繰り返し描かれてきたベストマッチな組み合わせである。
 それはどちらもが、ともに現実の社会から少し離れた場所に立っているという共通性からくるものだろう。
 どこか夢の世界に存在するようなおおらかさと優しさがふたりを取り囲んでいる。
 トムはマンローを憧れと尊敬のまなざしで見上げる。
 マンローは社会というものを、人生というものをトムに優しく説き聞かせる。
 そんな良好な関係が見るものを幸せな気分にさせてくれる。
 そしてマンローが夢の実現のために旅立ったあとは、彼の言葉どおりに忠実に留守宅を守るのである。
 彼の献身とかわいい笑顔が、この映画の幸せ度アップをはたす大きな要素になっているのである。
<2007/10/27>

 
 
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