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2003年中国作品。 上映時間109分。 監督: フォ・ジェンチイ 原作: モー・イェン 『白い犬とブランコ』 脚本: チウ・シー 撮影: スン・ミン 音楽: サン・バオ 出演: グオ・シャオドン/ リー・ジア/ 香川照之 |
青春は辛く切ないものである。 振り返って省みるとき、とくにその思いは強くなる。
そこには後悔や悔恨が常につきまとう。 「山の郵便配達」が大ヒットしたフォ・ジェンチイ監督の新作「故郷(ふるさと)の香り」もそんな思いに満ち溢れた映画だ。 大学進学のために村を出たジンハーは、以後一度も故郷に帰ることがなかったが、10年ぶりにやっと村に帰ってくる。 そして村のはずれの橋の上で重い荷物を担いだ貧しい農婦とすれ違う。 生活に疲れ、別人のように変わり果てた姿ではあったが、それは間違いなくジンハーの初恋の相手ヌアンであった。 お互い声を掛け合うこともなく行き交ったジンハーは深い悔恨と罪の意識に襲われる。 ヌアンは安定した家に嫁いで幸せに暮らしているものと思っていた彼は、その姿に意表をつかれ、声をかけることもできなかったのだ。 将来を誓い合ったヌアンを置き去りにしたまま故郷を出て行った苦い過去が甦ってくる。 こうして物語は、過去へと遡り、ふたりの初恋から別れへと到った経緯が回想されていく。 美しく聡明なヌアンとジンハー。ふたりは愛しあい、やがて別れがやってくる。 そして10年が過ぎた後の再会。ジンハーの胸にふたたびヌアンとの過去がよみがえり、彼女の現在を知るために彼女の家を訪ねることになる。 そこで知る、別れて以来の彼女の変化と貧しい生活。 ジンハーの心は複雑に揺れ動く。 だが過去はけっして戻ってはこない。 そしてともに家庭をもった現在の自分たちは、もう過去の自由なふたりではないということを、いまさらながらに思い知らされるのである。 過ぎ去った青春を思うとき、それは甘美な記憶であると同時に、辛く切ない記憶をともなったものでもある。 それにいつまでもこだわり続けるわけにはいかないのだが、そこで決着をつけない限り前に進めないというのも事実である。 過去に縛られたジンハーとヌアンがいかに決着をつけることができるのか。 そこに向かって映画は静かに流れていく。 原作は「紅いコーリャン」「至福のとき」などで知られる中国現代文学を代表する作家、モォ・イエンの小説「白い犬とブランコ」。 原作ではモォ・イエンの故郷である山東省高密県が舞台になっているが、撮影は江西省の貽源県で行われている。 これは貽源県の湿潤した景色がよりノスタルジックに映像化することができるという理由から決められたことで、そのねらい通りに映画で映し出された風景は美しく、深く印象に残るものになっている。 「山の郵便配達」でも見せた自然描写の冴えを、フォ・ジェンチイ監督はここでもいかんなく発揮しているのである。 なおこの映画で注目すべきことは香川照之がヌアンの夫ヤーバ役にキャスティングされていることで、粗野な聾唖者で、村では外れ者的な存在という役柄を見事に演じている。 若いふたりにとっては取るに足りない、哀れむべき人物であったはずの彼が、ふたりの再会後は無視できない存在となり、また物語の重大なキーマンとなるのである。 これで彼は2004年の東京国際映画祭で最優秀男優賞を受賞している。 <2007/12/25>
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