2005年12月3日
 
 
トニー滝谷
TONY TAKITANI
 
 
2004年日本作品。 上映時間75分。 監督/脚本: 市川準  製作: 橋本直樹/ 米澤桂子  プロデューサー: 石田基紀  原作: 村上春樹  撮影: 広川泰士  美術: 市田喜一  音楽: 坂本龍一 照明: 中須岳士  録音: 橋本泰夫  ナレーション: 西島秀俊  出演: イッセー尾形/ 宮沢りえ/ 篠原孝文/ 四方堂亘/ 谷田川さほ/ 小山田サユリ/ 山本浩司/ 塩谷恵子/ 猫田直/ 木野花
 
 村上春樹の短編集「レキシントンの幽霊」のなかに収められた一編、「トニー滝谷」を映画化した作品。 
 「病院で死ぬということ」「東京兄妹」「トキワ荘の青春」の市川準が監督。 
 主役のトニー滝谷と父親の滝谷省三郎をイッセー尾形が、トニーの妻A子と彼女の死後、トニーの前に現れるB子を宮沢りえが、ともに二役で演じている。 
 村上春樹の小説を映画化するということは、かなり難しい作業のように思われる。 
 日常を描きながら、ときに非日常を感じさせる世界、乾いた透明な感覚、そうした彼独特の小説世界を映像化するのはかなりの困難がつきまとう作業に違いないと想像するからである。 
 結論から先に言うと、市川準監督はこの難題を見事にクリアしたといえるだろう。 
 そしてこれまでの彼の作品群にまた新たな映像世界が加わった。 
  
 太平洋戦争が始まる直前、トニーの父、滝谷省三郎は中国に渡る。 
 そして戦争が終わるまで、上海のナイトクラブで気楽にトローンボーンを吹いて過ごしていた。 
 戦争が終わり日本に帰国した彼は結婚、男の子が生まれるとその子に「トニー」というハーフのような名前をつけた。 
 そして母親はトニーを生んだ3日後に死んでしまう。 
 風変わりな父親とふたりきりで過ごしたトニーは孤独な幼少期を送る。やがて成長し美大に入学、卒業後デザイン会社に就職、数年の後イラストレーターとして独立、そしてA子と出会って結婚、順調な人生を歩んでいるかにみえた。 
 だがトニーにはひとつだけ気がかりなことがあった。 
 それは妻が、あまりにも多く服を買いすぎることだった。 
 しかしトニーはそのことで妻を責めたりはしなかった。ただできればもう少し控えるようにしたらどうかと優しく諭し、妻も同意、買ったばかりの服を返しに行った先で交通事故に遭ってあっけなく亡くなってしまう。 
 そして一部屋分の洋服だけが残されたのである。 
  
 こうした物語が淡々と静かに流れていくのだが、村上ワールドの映像化を実現するために市川監督はさまざまな工夫を重ねている。 
 まずセットは通常のものとは大きく違い、空き地にステージを組み、その上に必要最小限の物しかないセットをいくつも作り、それをカメラの横移動で撮影、それによってトニー滝谷の日常を時空間ともに移動しながら、彼のこれまでの人生を凝縮して見せていく。 
 またセリフも極力少なくし、セリフとセリフの間に「・・・・と彼は考えた。」といった類のナレーションを挿入する。 
 それによって映像という具体性を帯びたものなのに、ときに小説を読んでいるような感覚を味わうことになる。 
 さらにそのナレーションは彼らの心の声の代弁でもあり、より深く彼らにかかわっていくことが出来る手助けにもなっている。 
 こうした実験的な手法がじゅうぶんな効果をあげ、時間とともにわれわれ観客は主人公トニー滝谷と素直に同化することができ、いつしか彼の抱える深い孤独と喪失をしっかりと受け止めるようになっていくのである。 
 よけいなものをそぎ落としていった先に現れてくる透明でピュアな日常、それが教えてくれる生きることの深い哀しみが強く胸を打つ。 
 坂本龍一作曲のピアノ曲がその思いを大きく後押ししていることも忘れずに書いておきたい。 
 また主人公トニー滝谷が私と同じ昭和22年生まれということもこの映画を身近なものに感じさせる大きな要素であり、より深い共感を覚えることにもなったということも。 
<2007/12/19>

 
 
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