2005年10月17日
 
 
蝉しぐれ
 
 
 
2005年東宝作品。 上映時間131分。 監督/脚本: 黒土三男  製作: 俣木盾夫  プロデューサー: 中沢敏明/ 宇生雅明  エグゼクティブプロデューサー: 遠谷信幸  協力プロデューサー: 田中渉/ 柴田一成  原作: 藤沢周平 撮影監督: 戸澤潤一  撮影: 釘宮慎治  美術監督: 櫻木晶  衣装: 林田晴夫  編集: 奥田浩史  音楽: 岩代太郎  共同プロデューサー: 千野毅彦  出演: 市川染五郎/ 木村佳乃/ ふかわりょう/ 今田耕司/ 原田美枝子/ 緒形拳/ 小倉久寛/ 根本りつ子/ 山下徹大/ 利重剛/ 矢島健一/ 渡辺えり子/ 原沙知絵/ 麿赤兒/ 田村亮/ 三谷昇/ 大滝秀治/ 大地康雄/ 緒形幹太/ 柄本明/ 加藤武/ 石田卓也/ 佐津川愛美/ 久野雅弘/ 岩渕幸弘
 
 小説「蝉しぐれ」は藤沢周平の代表作である。 
1971年に46歳という遅咲きで作家デビューを果たした藤沢周平が1988年に発表した長編小説で、作家としてもっとも円熟した時期に書かれたものである。 
これは主人公、牧文四郎の15歳から30代半ばまでの物語である。 
そのなかで彼がどのように生き、どのように成長していったかが描かれる。 
文四郎と幼なじみのおふくとの秘められた恋、道場仲間の小和田逸平、島崎与之助との友情、父子の愛情と別れ、それらが物語の核となって展開する。 
そしてお家騒動による父親の切腹という悲運に見舞われた文四郎が、その逆境に耐えることで己を伸ばしていく姿が描かれる。 
その若者らしい素直で凛々しい姿には誰しもが爽やかな感動をおぼえる。 
これはそんな名作の映画化である。 
監督は黒土三男。 
フリーの映画監督でありシナリオライターでもある。 
これまでに「オルゴール」(89年)「渋滞」(91年)「英二」(99年)と3本の映画を監督しており、今回が初の時代劇挑戦となる。 
実は今回の映画化実現に至るまでにはさまざまな紆余曲折があり、15年もの歳月がかかっていることを監督自身が明かしている。 
小説「蝉しぐれ」が発刊された当時、黒土三男監督は偶然にも時代劇を撮ろうと模索していた。 
そしてこの小説に出会い、深い感銘を受けたのである。 
彼はすぐに藤沢周平に映画化の申し入れをしている。 
だが「自分は映像化するために小説を書いているのではない、そっとしておいてほしい」という理由で断られてしまう。 
後に人づてに聞いた話ではフリーの監督である黒土三男監督がもしも失敗をしたら、個人で大変な責務を負うことになるのではないかと心配したがゆえの辞退であったということである。 
この話に感銘した黒土監督は1年がかりで小説をシナリオ化、再度映画化の申し入れをしている。 
そして最後は藤沢周平が根負けしたような形で映画化の承諾を得ることができたのである。 
だが藤沢周平の生前にそれが実現されることはなかった。 
結局15年もの歳月を経て、ようやく今回の映画化実現となったのである。 
それだけに監督のこの映画にかける思いにはなみなみならぬものがある。 
そしてその思いのほどは画面から確実に伝わってくるのである。 
  
実は今回の映画化以前にテレビでいちどドラマ化がされている。 
2003年秋から2004年の秋までの1年間、NHKの金曜時代劇として製作されたドラマがそれである。 
そしてそのシナリオを書いたのが黒土監督であった。 
藤沢周平ファンである私もこのドラマは毎回楽しみに観たひとりであるが、原作に忠実に、また原作をそこなうことなくドラマ化された内容には深く感動した。 
黒土監督はこのシナリオ化をベースに、ドラマでは描ききれなかった「日本人の気高さ」を、さらにはテレビでは表現しきれない空気感や透明感をスクリーンで表現しようと映画化の実現へと動き出したのである。 
  
舞台は江戸時代の東北の小藩、海坂藩。藤沢作品ではお馴染みの架空の藩である。 
彼の故郷、山形県鶴岡市をモデルにした海坂藩の様子は次のようなものである。 
「丘というには幅が膨大な台地が、町の西方にひろがっていて、その緩慢な傾斜の途中が足軽屋敷が密集している町に入り、そこから七万石海坂藩の城下町がひろがっている。城は町の真中を貫いて流れる五間川の西岸にあって、美しい五層の天守閣が町の四方から眺められる。」とある。 
映画はまずこの牧歌的でのどかな町を再現することから始められた。 
全国をくまなく歩いてロケ地探しをした結果、藤沢周平の故郷、山形県にその地を見つけた。 
月山のふもと、山形県羽黒町の1万坪の土地である。 
そこに一億円をかけてオープンセットを作り、一年間風雨にさらして自然の風合いを加えることで古いたたずまいの城下町を再現している。 
そしてこれに四季の移り変わりの美しい映像を重ねることでドラマに深い奥行きを作り出している。 
静かだが緊張感あふれる映像、過剰にならない押さえた調子が、そこで繰り広げられる人間ドラマに作り物でない深いリアリティーを与えている。 
武家という身分社会のなかで、厳しい規律によって縛られている人間たちの悲劇、また、だからこそ存在する言葉に出せない強い思い、秘められた心の深さ、また己を律することの厳しさ、折り目の正しさ、そういった日本人がかつて持っていた「気高さ」が丁寧に作られた映像によってしみじみと伝わってくるのである。 
もし原作者、藤沢周平がこの映画を観ることができたなら、きっと満足したに違いない。 
そして「長い時間をかけて完成させ、ほんとうにご苦労さまでした。」と監督に声をかけてねぎらったのではなかろうか。 
上映時間2時間11分が短く感じられる内容に、藤沢周平の世界をたっぷりと堪能したのである。 
<2005/12/24>

 
 
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