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2004年東宝作品。 上映時間121分。監督: 星護 製作: 亀山千広/ 島谷能成/ 伊東勇 プロデューサー: 重岡由美子/ 市川南/ 稲田秀樹 企画: 石原隆 原作/脚本: 三谷幸喜 撮影: 高瀬比呂史 美術: 清水剛 編集: 山本正明 音楽: 本間勇輔 出演: 役所広司/ 稲垣吾郎/ |
三谷幸喜の代表的な舞台劇「笑の大学」を映画化した作品である。
舞台初演は96年、登場人物はふたりだけで、そのひとり検閲官の向坂を西村雅彦が、そしてもうひとりの劇作家、椿を近藤芳正が演じて、この年の読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞している。 この作品は当初、ラジオドラマとして書かれたもので、94年にNHKで放送されている。 この時の向坂は三宅祐司、椿は板東八十助(現、三津五郎)が演じている。 そして今回の映画化である。 映画版向坂は役所広司、椿はSMAPの稲垣吾郎という異色(?)の顔合わせである。 昭和15年、戦争の道をただひたすらに突き進む日本には暗い影が差していた。 言論は統制され、映画や演劇は上演前に厳重な検閲を受けていた。 そんな時代に出会ったふたりの男、検閲官の向坂睦男(さきさかむつお)と劇団「笑の大学」の座付き作家、椿一(つばきはじめ)。 向坂はこれまでいちども笑ったことがなく、「このご時世に喜劇など上演する意味がない」と考える仕事一筋の堅物男。 一方椿は笑いに命をかける若者である。 水と油のようなふたりが警視庁保安課の取調室で上演予定の台本を巡って丁々発止のやりとりを繰り広げる。 向坂は何とか上演禁止に持ち込もうと、あれこれ理由をつけては無理難題な要求を課していく。 その課題をうまくクリアしながらも、笑いの要素をなくさないようにと懸命に知恵を絞る椿。 そんな真剣なやりとりが皮肉なことに台本をどんどんと面白いものに変えていく。 「冗談を考えたこともない」向坂の要求が意外にも台本の弱かった部分を指摘しており、それが椿の作家魂を刺激して、いい方向へと向かっていく。 門外漢であるがゆえに、芝居上の常識や先入観にとらわれることがなく、台本の矛盾点や不自然な点が向坂にはよく見える。 その的確な指摘にいちいち納得してしまう椿、そしていつしかそんな向坂に感嘆の声をあげ、尊敬の念をもつようになる。 その賛辞に最初は戸惑い、照れていた向坂も、次第に台本づくりの面白さにとりつかれていく。 こうしてふたりは検閲官と作家という壁を越え、まるで共作者のようして台本を仕上げていくのである。 そんなふたりの7日間を描いた映画である。 舞台となる警視庁保安課の取調室が映画全体の80%以上という密室劇は三谷幸喜お得意の設定である。 さらにひとつの作品が作者以外の人間の都合によってどんどんと改変されていくというあらすじも「ラヂオの時間」や「みんなのいえ」といった三谷ワールドと同様のものである。 今回の作品では三谷幸喜はシナリオの担当だけにとどまり、監督は「警部補、古畑任三郎」シリーズでメイン監督を務めた星護が当たっている。 これが映画初監督である。 映画化にあたってシナリオは書き直されてはいるものの、ほとんどが取調室という変化のなさをどう映画的に面白く、観客を飽きさせないようにするかということが大きな課題であった。 そのことにかなり知恵を絞ったが、結局たどりついた演出法はオーソドックスなものであった。 奇をてらわず正攻法で攻めていくのが最善と判断した。 そのなかで室内の微妙な変化を窓から差し込む日差しの変化によって表現したり、向坂の内面の変化に応じてカメラワークを動きのあるものにしたりといったさりげない工夫で対応している。 これによってふたりの対話の流れを阻害することなく、一定のリズムと変化が生じ、さらにドラマが佳境に入って行くにしたがって自然な躍動感が生まれ、観ているこちらを飽きさせない。 そしてそれに続くラストの静かな感動へ自然と導かれていくことになるのである。 ところでこの喜劇作家、椿一にはモデルがある。 戦前、戦後を通じて映画、舞台で活躍した喜劇王エノケンこと榎本健一率いる劇団「笑の王国」の座付き作家、菊谷栄である。 彼はエノケンの全盛期を陰で支え、検閲という圧力を受けながらも数々のヒット作を作り続けた。 そして作家としてもっとも輝いていた時期に応召され、わずか2ヶ月後に中国で戦死した。 晩年エノケンが紫綬褒章を受章した折、彼は菊谷の墓前に報告、「自分は彼の代わりに受け取ったようなもの」と語ったという。 その菊谷を同じ喜劇作家として深く敬愛する三谷幸喜の手によってこの作品が生まれたのである。 そしてふたりがともに愛してやまない「笑い」というものが、いかにわれわれにとって大切なものかということを、この映画によって描いたのである。 「笑い」を知らなかった向坂がそれによって人間的に生まれ変わったように、「笑い」が人々の心を活性化し、生きる勇気を与えてくれ、そして生活を、人生をより豊かなものに変えてくれるのだ。 そんな熱い想いが確実に伝わってきた。 <2005/7/11>
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