NO.6
 
 
  
鈴木清順の映画
 
 
 
 昭和三十年代後半の日活青春スターの二軍選手、山内賢主演の「悪太郎」(昭和三十八年)は当時の量産される日活作品の中では異彩を放った作品であった。 
 この作品の原作である今東光の小説は彼の半自叙伝的な内容で、当時の学校という規格に収まりきらない個性の強い若者の一見無軌道とも思われる日々を描いている。爽やかで、痛快な青春小説である。 
 この映画は、後の「けんかえれじい」(昭和四十二年)と対をなす作品であり、山内賢は見事にそれを演じている。 
 当時の日活青春スターたちの中で、これといった決定打もなく、常に二軍半の俳優に甘んじていた彼にとって、この映画との出会いは幸運であったと言えるだろう。 
 彼の育ちの良さと適度の陰がこの主人公のキャラクターにうまくはまったということだろうが、強い印象を残した。 
 舞台は大正ロマンの自由な香りを残した昭和初期のある地方都市である。 
 この舞台設定は「けんかえれじい」から後の「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」等に至る清順得意の時代背景である。 
 この地方都市の旧制中学生の主人公の爽やかな青春の日々が恋と喧嘩を中心に描かれていく。 
 「悪太郎」の主人公、今野東吾は都会的に洗練された若者であり、文学を愛するいわば軟派であるのに対し、「けんかえれじい」の主人公、南部麒六(高橋英樹)は当時の旧制中学生の典型であるバンカラな硬派という違いはあるもののどちらも青春の沸き上がるエネルギーを持て余した若者たちである。 
 そして、その生命力あふれるエネルギーが生み出していく活躍が微苦笑を交えながら情感たっぷりに描かれていく。 
 当時、高校生であった私は彼等に思いを仮託し、その率直で型破りな行動に痛快な喝采をおくったことを思い出す。 
 鈴木清順は東京の下町生まれの生粋の江戸っ子だが、十代の頃、旧制弘前高校に学んでおり、この時の体験がこれらの作品に色濃く投影されていると思われる。 
 彼自身、松竹大船撮影所の助監督時代、腰に手ぬぐいをぶら下げたバンカラな助監督であったらしい。 
 そうした監督自身の江戸っ子気質とバンカラさが映画のスタイルや主人公の造形に強くにじみ出ているようである。 
 江戸っ子気質、すなわち洗練された都会っ子の矜持が地方の旧幣な文化とぶつかるところから生まれるドラマがこの物語の中の一本の太い芯になっている。 
 このような物語は古くは漱石の「坊ちゃん」に始まり、様々な青春物語のパターンとして登場してくるが、鈴木清順のこれらの作品はそういったジャンルのなかでもひときわ異彩を放っている。 
 旧弊な世界からはみだした主人公は、若者らしい一途さで恋と喧嘩を重ねていく。 
 しかし、この祝祭の日々もやがて終わりを告げる時がやってくる。 
 「悪太郎」は恋する少女の死という形で。「けんかえれじい」では同じく恋する少女の突然の別れによって。 
 笑いとアクションで快調に物語世界に引き込まれていた観客は、ここで前途に暗い陰が差し始めるのを予感する。そして、それまで物語の裏に隠れるように流れていた無常観に気づかされるのである。 
 ここが鈴木清順映画の真骨頂であり、他の追随を許さず、熱狂的に支持される最大の要素である。そしてそれが独特の様式美によって描かれることで鈴木清順独自の映像世界が現れるのである。 
 例えばそれは歌舞伎の様式性を採り入れたような映像であったり、夢と現実(時にはあの世とこの世)が次元を越えて違和感なく同居したような映像であったりする。 
 また物語の展開と直接関係しないような場面に非常に斬新なイメージが現れたりする。 
 それが彼の映画に独特の雰囲気を作り上げていく。 
 そしていつのまにか人生の深いところに接していることに気づかされるのである。 
 そのあたりが清順ファンにはたまらなくいいのである。 
 しかしそういった感覚に無縁な人間にとっては、それはわからない映画と映るわけで、後に彼は「わからない映画を撮る監督」として日活から首を切られることになってしまう。 
 確かにリアリズムとして考えた場合、理屈に合わないようなこともあるが、映画は必ずしも現実と同じである必要はないわけで、むしろ荒唐無稽な飛躍やイメージの誇張が物語の本来持っている自由な活力を生み出す場合がある。 
 鈴木清順も次のように言っている。 
 「今映画で問題になるのは思想だとかそういったものが先行しているわけですけれども、僕の考えとしては、映画というのはひとつのフォルム以外のなにものでもない。形式ですね。」 
 実に映画的な発想であり、まさに芸術の本質はフォルムにあるといえるわけで、イメージが自由に飛翔していくことによって映画のおもしろさが形作られていくということである。 
 そしてそういった意味では「映画的」には非常によくわかると言えるわけで、その意表を突くめくるめくようなイメージの連続にわれわれファンは魅了されるのである。 
 鈴木清順は映画的な世界にわれわれを誘ってくれるまさに「仙人」なのである。
 
 
 
主要作品
 
 
すべてが狂ってる(60) 探偵事務所23 くたばれ悪党ども(63) 野獣の青春(63)
悪太郎(63) 関東無宿(63) 肉体の門(64)
俺たちの血が許さない(64) 春婦伝(65) 刺青一代(65)
河内カルメン(66) 東京流れ者(66) けんかえれじい(66)
殺しの烙印(67) ツィゴイネルワイゼン(80) 陽炎座(81)
ピストルオペラ(01) オペレッタ狸御殿(04)  
 
鈴木清順作品集
 
 
 
 
 
監督INDEX
監督NO.5 小津安二郎
監督NO.7 寺山修司
 
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