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大島渚の映画
 
 
 大島渚の映画を初めて見たのは早稲田祭で上映された「青春残酷物語」と「太陽の墓場」であった。 
 大隈講堂で上映されたこの二本の映画はそれまでの映画のイメージを大きく破るような衝撃的な映画であった。 
 昭和四十一年、早稲田大学で授業料値上げの反対闘争が起こり、その騒然とした運動が世間の注目を浴びた後のつかの間の平穏な時期の大学祭であった。 
 この後、四年間にわたって、全国の大学を巻き込んだ大規模な学生たちの叛乱が起きることになるが、この時はまだそれほど火の手は上がっておらず、しかし、確実にその予感はあった。 
東映の時代劇や日活のアクションが映画体験のすべてという田舎出の少年の私にとってそれは今まで見たこともないような世界を描いた物語であり、悪に満ちた負のエネルギーあふれる世界であった。そしてそれが過去の物語としてではなく、今、現在を生きるわれわれと同時代のものとして描かれている。 
 戦慄と怖れを感じながら画面に魅了された。  

 「松竹ヌーベルバーグ」という言葉はおぼろげながら知っており、子供の頃、町に貼られた「青春残酷物語」のポスターを目にした記憶がある。その時何となく近づいてはいけない危険な匂いを子供心に感じたことを覚えている。 
 その直感は間違っていなかったわけで、それは危険な魅力にあふれた映画であった。 
 その後に観た「日本の夜と霧」も今までまったく知らなかった左翼運動の内部闘争を描いた異色の映画であった。全編ほとんどディスカッション場面で撮られており、反体制運動の欺瞞と挫折が重く沈んだ暗い色調で過激に描かれている。 
 それまでの私には無縁であった反体制運動というものの魔的な政治ダイナミズムを初めて知った。 
 この反体制運動の頽廃というテーマは後の連合赤軍の問題にも通じるものであり、大島渚自身、学生運動のなかで味わった苦い思いを重ね合わせた作品でもあった。 
 しかし、残念なことにこの作品はほとんど陽の目を見ることなく、封切り後わずか四日間で上映中止になってしまう。当時は六十年安保の年で世情は騒然としており、そういった状況の中でこの映画が封切られたのだが、上映四日目に社会党の浅沼委員長が右翼の少年に刺殺されるという事件が起き、松竹首脳部の政治的配慮によって突然打ち切りになったのである。 
 結局、これがもとで大島渚と松竹が衝突し、ついには大島渚の退社という形の結末に至るのである。 
 彼の著作「魔と残酷の発想」にはこの間のいきさつが詳しく書かれており、非常に興味深く読んだ。さらにこのなかで彼は自身の政治的な総括と戦後民主主義についての独自の鋭い検証を行っており、情熱あふれるメッセージ集となっている。 
 それは、まるで政治思想書のような内容であり、アジテーションとでも呼びたいほどの激烈な調子で書かれており、当時の私は大きな影響を受けた。 
 しかし、それはただ勇ましいだけのアジテーションではなく、明晰に自己を分析し、右も左もなぎ倒す潔さがあり、過去の自らの挫折体験に根ざしたメッセージであった。 
 そして自ら時代の前衛たらんと決意している。 
 その結果、この一群の作品が創り出され、時代に鋭く突き刺さる。 
 そして驚くべきことは、これらの作品がわずか1年という短期間に生み出されたということだ。いかに彼の内面で表現すべきものが多く蓄えられ、醸造され、そのエネルギーが充満していたかということだろう。 
 彼はこの1年間を短距離走者のように疾走し、その熱気を激しく周囲に放射し、そして去っていった。 
 そして独立後も彼のエネルギーは衰えることなく常に時代のトップランナーとして作品を創り続けていく。独立後の状況はけっして生やさしいものではなかっただろう。だがその困難にもかかわらず、数々の映画を撮り、「絞死刑」「儀式」などの評価の高い作品を生みだした。 
 しかし残念ながらあの時代の作品の輝きはなく、どうしても失速した感は否めない。 
 彼の批判してやまなかった<芸術至上主義的名作路線>なるもの、言いかえれば日本映画界の権威として厳然とあったものが、皮肉なことに彼の独立後は次第にその力を失っていくことになってしまう。 
 またもう一方の批判すべき対象であった「誤った政治主義」的なるものも同様に先細りしていくことになる。 
 破壊者としての栄光がその破壊すべきものの衰退とともに次第に衰えていくのは自然の成り行きである。ここに彼の不幸があり、以後の作品が先の作品ほどの力を持ち得なかった大きな要因があるように思う。 
 映画は時代を映す芸術だと言われるが、こうしてみると時代に拮抗していくことがいかに困難なことであるか改めて考えさせられる。 
 しかし、それだからといって彼の栄光が損なわれるわけではなく、これらの作品が映画史の中で燦然と輝いている事実に変わりはなく、彼の時代の射手としての栄光もわれわれの記憶の中に確実に残っていくのである。

 
 
 
主要作品
 
青春残酷物語(60)
太陽の墓場(60)
日本の夜と霧(60)
悦楽(65)
白昼の通り魔(66)
日本春歌考(67)
忍者武芸帳(67)
無理心中 日本の夏(67)
絞死刑(68)
少年(69)
新宿泥棒日記(69)
東京戦争戦後秘話(70)
儀式(71)
夏の妹(72)
愛のコリーダ(76)
愛の亡霊(78)
戦場のメリークリスマス(83)
御法度(99)
 
 
大島渚作品集
 
 
 
 
監督INDEX
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監督NO.4 山田洋次
 
 
 
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