サンセット大通り 50米
SUNSET BOULEVARD
■製作・脚本 チャールズ・ブラケット ■監督・脚本 ビリー・ワイルダー
■脚本 D・M・マーシュマンJr ■撮影 ジョン・F・サイツ
■音楽 フランツ・ワクスマン
■出演 グロリア・スワンソン/ウィリアム・ホールデン
エイリッヒ・フォン・シュトロハイム/バスター・キートン
「サンセット大通り」とはハリウッドの有名な目抜き通りのことで、その一画に「チャイニーズ・シアター」という名高い劇場があることで知られている。
この劇場は1927年に劇場王の異名をとったシド・グローマンが造ったもので、その中国寺院風のデザインは通りでもひときわ目をひく異彩を放った存在になっている。
そしてこの劇場をさらに有名にしているのは劇場前の敷石に刻まれた有名俳優たちの手形や足形のコレクションで、そこに手形を残せるのは選ばれたスターだけに許された名誉なのである。
いわばハリウッドの華やかな栄光を象徴する場所としてこの通りは存在している。
その通りの名前を映画の題名に冠しているのは、この映画がハリウッドの内幕を大胆に描いていることによるもので、その命名のセンスには曰く言い難いものがある。
物語は過去の栄光に生きるサイレント時代の大女優ノーマ・デズモンドと、彼女が拾った無名のシナリオライターとの愛情と確執を中心に描かれる。
彼女は荒れ果てた大邸宅に忠実な執事とたったふたりで住んでいる。
その屋敷に若い男ジョーが借金取りから逃れるために偶然足を踏み入れる。
彼が無名のシナリオライターであることに目をつけたデズモンドは、自分が映画界にカムバックするためのシナリオとして秘かに用意していた『サロメ』の手直しをさせるために彼を雇い入れる。
これがシナリオライターとして認められる絶好のチャンスだと考えたジョーだが、ふたりの関係が次第に仕事を越えたものになっていくにしたがって彼女の過去を追う姿に幻滅をおぼえるようになっていく。
そしてやがて訪れる破滅的な結末。
主役のノーマ・デズモンドを演じているのはグロリア・スワンソン。
彼女もデズモンドと同じようにサイレント時代には絶大な人気を誇っていた大女優だ。
だが時代がサイレントからトーキーに移行するにつれ、急激に人気を失い、その栄光も今や過去のものとなってしまった。
そんなグロリア・スワンソンの現実の姿を監督のビリー・ワイルダーは大胆にもノーマ・デズモンドの姿にそのまま投影しているのである。
さらにデズモンドの執事役を演じているのがエイリッヒ・フォン・シュトロハイムで、この役にも彼の実人生の姿をダブらせている。
彼はかつてはグロリア・スワンソン主演で『クイーン・ケリー』という大作を製作、大金を注ぎ込んだものの結局は未完に終わったという経歴の持ち主である。
そんな彼が演じたのがかっては画監督でノーマ・デズモンドの夫でもあったが、今は執事として忠実な番犬のように彼女に付き従っているという男であった。
そんな虚実入り交じった不思議な役を異様な存在感で演じている。
さらにハリウッドの重鎮セシル・B・デミル監督がデズモンドを育てた監督として実名で登場するが、実際の彼もスワンソンを見いだし育て上げた監督である。
またデズモンドのカード仲間としてバスター・キートンが登場、現実の彼もスワンソンの旧友のひとりなのである。
ビリー・ワイルダーはこうした虚実入り交じった設定を施すことで映画に異様なリアリティーを与えており、ハリウッドのスキャンダラスな側面を見事に浮き彫りにしているのである。
そのクールで突き放した眼にワイルダーの残酷なまでの作家精神を見ることができる。
そしてこうした鬼気迫るリアリティーの総仕上げになるのがストシーンである。
気が狂ったデズモンドが待ち受けるマスコミのカメラの放列を映画の撮影と思いこみ、「サロメ」になりきった姿でロビーの階段を降りてくる。
いっせいにたかれるカメラのフラッシュ。騒ぎ出す野次馬たち。
そのときシュトロハイム演じる執事が大きな声で、「サイレント!」
静まったロビーのなか、完璧に「サロメ」になりきったデズモンドが両手をあげながら階段を一段一段と降りてくる。
そこへすかさずシュトロハイムからかかる「カメラ・スタート!」の声。
これは映画史に残る名ラストシーンである。
★アカデミー脚本賞、ゴールデングローブ作品賞、監督賞、主演女優賞(G・スワンソン)
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